大嫌いなアイツ
一気に梨夏の身体に力が入る。
突然の誘いに驚いているだけだとわかってはいるけど、どこかで、断られたらどうしよう、と思ってしまう。
早く、うん、って頷いてほしい。
祈るような気持ちで梨夏の返事を待つ。
「…梨夏。」
「………あ、あの…」
「早く…、」
抱きたいんだ。
そう言いたいのをグッと抑える。
早く梨夏に触れたい。
キスしたい。
抱きたい。
でも、それは身体目当てとかではなくて、梨夏に触れていたいだけ。
梨夏を感じていたい。
ただ、それだけ。
数秒の沈黙の後、
「……………うん…。吉野と、帰る」
俺の気持ちが伝わったのか、梨夏が俺の腕をきゅっと掴んで、そう呟いた。
梨夏の言葉に、ホッとする。
梨夏を抱き締める腕の力を少し緩めると、梨夏が俺の腕の中でもぞもぞと動き、俺の方を振り向いた。
「…ん?」
『どうした?』と首を傾げる俺に、こう言った。
「…私も早く、吉野に触れたい」
――――もちろん、この言葉で、俺のスイッチが入ってしまったのは、言うまでもない。
梨夏は俺を誘う天才だと改めて思った。