大嫌いなアイツ
 


「でも、吉…」

「同じだって。な?帰ろ?」


これ以上、この暗がりで二人でいるのはマズイ。
と思いつつ、つい癖で俺は梨夏の頭に手を乗せようと、手を上に上げてしまう。


っあー、ダメだ…!
…我慢しろ、俺!


ふぅ、と小さく息をついて、梨夏には触れずに手を下げる。
手持ちぶさたで、店の鍵を指でくるくると回しながら、通用口に向かう。
けど。


「…何で?」


消えそうに小さな声に振り向くと、すぐ後ろにいると思っていた梨夏の姿は、2メートル後ろ。


「え?…っ!」

「何で…」


いや…、何で?って聞きたいのはこっちなんだけど!


何で…泣いてんだよ!?


「梨夏?どうしたんだよ?どっか痛いのか?」


慌てて梨夏に近付く。
狼狽えてしまう自分が情けない。
だって、めったに梨夏は泣いたりしないから。
どうしたらいいのかわからない。


「~っ」

「梨夏」

「…吉野、私のこと、嫌いになったの?」

「―――はっ!?」


待て待て待て!
何でそんなことになってるんだ?
何が何だかわからない。


「…梨夏、何でそんなこと…っ!?」


どんっ、という衝撃が身体に走る。


…気づけば、梨夏が俺の胸の中にいた。


 
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