Heart ✰番外編✰
梓紗の顔を、姿を…………どうしても見ることが怖かった。
だけど、背中にぬくもりを感じた瞬間。
そんな考えなんて頭の中から消えていた。
「あ…………ずさ??」
「ねぇ、あたしのことどう思う??」
その問いに答えが詰まる。
「っっ……………。」
「それが答えだね。」
背中から一瞬にしてぬくもりが消えてしまった。
背中に残るのは、梓紗の残り香だけ………。
「行くなっ!!!!」
気が付いたら、その細い腕を掴んで引き留めていた。
どうしてもいまは、この腕を手放してしまったらいけない気がした。
「っ離して!!!!」
悲痛な叫びにしか聞こえなかった。
梓紗の大きな瞳は、赤く少しだけ腫れている。
たくさん…………泣いたのが分かった。
「お願いだ………行くなよっ………。」
「離してっ!!!!」
俺は梓紗を自分の胸に引きつけた。
どこか遠くに逃げてしまわないように…………。
だけど…………。
「夏起くんは色んな香水を付けてるんだね…………。」
涙を流しながら言ったその一言に、俺は梓紗を離した。
梓紗は俺の身体についた『香水』に気が付いた。
今まで、梓紗の代わりに抱いていた女達の香水に………。
「あたしを抱いたその身体で今まで何人の女の子を抱いたの??」
梓紗は、泣いていたんだ…………。
俺の前で初めて梓紗は涙を見せた。
心が軋んでいく_________痛い_____。
「梓紗…………聞いてくれ………。」
震えた情けない声が出た。
「何も聞くことなんてないでしょ??夏起くんはあたしを忘れてしまったんだから。だって…………。」
梓紗は涙を更に流しながら…………。
「1度もあたしの病室にあれから来てくれなかったじゃない………。」
梓紗はそのまま走って行ってしまった。
俺の前から梓紗は、涙を流しながら消えてしまった。