想 sougetu 月
「ほら、月子」
「ん」

 労わりを含めた愛情のある声で私の名前が呼ばれる。

 斎から差し出される手。
 私はそれに自分の手を重ねる。

 私の愛しい人の温もり。

「斎」
「どうした?」
「家に帰ったらえっちしようか?」
「え!」

 私からの誘いに斎はすごくびっくりしている。

 まあ、それも当然だろう。
 私から誘ったのはこれが初めてなのだ。

「す、すぐに帰ろう!」
「ちょ……」

 嬉しそうに手を引っ張られて困ってしまう。

 今日は14回目の23歳の真ん中誕生日。
 デートで映画を観に行く途中。

「だめだってば、映画見るんでしょ?」
「中止」
「ええっ!」
「月子が悪い」

 引き返す斎を止めようと、足を踏ん張るが力で勝てるはずがない。
 どんどん引っ張られてしまう。

「どうして私が悪いの?」
「こんなに興奮したら映画なんて頭に入るか!」
「こ、声が大きいよ」

 恥ずかしくて周りを見てみるが、誰も私達を見ていないことにほっとする。
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