想 sougetu 月
 私は斎の手をくいっと2回引っ張ると、やっと斎が足を止めて振り向いてくれた。

「なに?」
「戻る時間がもったいないよ?」
「は?」

 ずっと興味はあったけれど、自分から誘うのは恥ずかしい。
 でも今日は真ん中誕生日。
 こういうサービスもいいかと、がんばって勇気を奮い立たせる。

「あそこは?」

 そう言ってある建物を指差す。

 斎は不思議そうな顔をして私の指差す方向に視線をやり、しばらくして驚いたように私に視線を戻すと、突然私の額に手を置いた。

「熱なんてないってば、斎はああいうトコ嫌?」
「嫌なわけないだろ?」
「興味ない?」
「別に中は普通のホテルと変わんないぞ? それにあそこは車じゃないと入れないから、もう少し奥のラブホじゃないと入れないよ」

 斎の言葉に一瞬だけ思考が止まる。

 ちょっと待って、その返答って何か変じゃない?
 それじゃまるで行ったことあるみたいなんだけど……。

 私はさりげなく口を開く。

「間違ってない? それっていつ頃の時の話?」
「いつって……19の時か?」

 19……。
 衝撃的な話にショックを受けてしまう。
< 94 / 97 >

この作品をシェア

pagetop