君がいるから
「父さん、22時頃には出るんでしょ?」
「あーそうだな。そのぐらいの時間だって言ってたなぁ、梶が」
リビングのすぐ隣にある父さんの部屋の和室にジャケットを掛け鞄を畳の上に置き、そのまますぐ着替えを出した。
「ご飯すぐ出来るから先にお風呂入って。でも、お湯は溜めてないんだ……ごめんね」
私が帰ってきたのが予定より少し遅めだったから、お湯をバスタブに溜めるまで手がまわらなかった。
父さんはバスタブにじっくりゆっくり入るのが好きで、1時間入っていることもある。疲れきっている時は特に入りたがるから、すごく申し訳ない気持ち――。
「いいよ。あきなも毎日頑張ってくれてるんだ。謝るのは父さんの方だ、本当にいつもすまないな」
父さんは差し出した着替えを受け取って、深く座っていた体を起こして座り直し、立っている私を見上げながら申し訳なそうに微笑む。
「父さんだって謝ることないよ? 私は別に大したことしてないし。家事も大分慣れてきたし、料理も母さん程上手じゃないけど、好きになってきたから楽しいの」
(まぁ、勉強は胸を張れるほどではないのが、一番申し訳なく思う)
腰に両手をあててにっこり笑って見せたら、くしゃりと目尻の皺を寄せたいつもの父さんの優しい笑顔。
「あきなの笑顔を見たら、元気が出てきたなぁ。よしっ、先にシャワー浴びて皆ごはん食べようっ」
ゆっくり立ち上がり、バスルームへ向かった父さんと同時に私はキッチンに戻って、中断してしまった作業を再開。トントントンとリズムよく包丁を使い野菜を切っていく。
「コウキー、お皿とホットプレート出しといてー」
「あー、はいはいっ」
コウキも手伝ってくれて何とか支度を終え、父さんが出てきた頃にはすぐに食べれる状態で3人が定位置の椅子にそれぞれ腰を下ろす。両手を合わせ、3人の声が重なった――。
* * *
腹ペコだったお腹を満たして3人でしばしの休息。
「お腹苦しい……」
「姉ちゃん、また太るんじゃね?」
「コウキは一言多い! あんたが1番食べてんのに、なんでそんな余裕な顔してんのよ」
ソファーの背もたれに体を預けた状態で、床に座っているコウキを睨んだ。
どうせあんたみたいに細くない――心中で叫ぶ。ふふんっと、口端を上げて私を見ているコウキの顔に向かって、むっと頬を膨らませた。