君がいるから
Ⅴ.傷痕
「シャルネイの人間はセンス悪りぃな」
黒の長袖ハイネックシャツの袖を捲くり上げ、シャツの上から縁に模様が描かれ薄黄のノースリーブの丈が膝まであり、両脇にスリットが入っているそれはあの伝統ある民族衣装に似ている。
それと合わせて、左肩にはシルバー色の防具らしき金属を身につけ、腰には剣のようなのが2本覗く。
それを身に纏った主は、赤い髪を上へ立たせ左頬には目元まである大きな十字傷、一重瞼にやや大きめの茶色い瞳の青年だ。彼は物珍しそうに私を見ながらも、口端を妖しく上げる。
「変な服だけど……まぁ売れるか」
指先がない黒のグローブを付けた手を顎に宛がい、上から下まで何度もジロジロと見て1人で納得した様子。
「んー。それから……」
服へと向けていた視線を、今度は私の顔へと移動して瞳同士が出合う。鋭い茶色の瞳に、思わず顔を背ける。
「顔は悪くないな。何日間かは楽しんで、売るのはそれからでもいいだろう」
「キャッ!」
突如、急に足元が浮遊感に襲われ、声を上げる。そして、視界がぐるりと逆さになり、次に起こった出来事に状況を確認する間もなく、まるで荷物のような扱いで青年の肩に担がれてしまう。
「降ろして!! あなた誰なの!?」
ジタバタ足を動かして青年の胸を叩き降りようと試みるけれど、腕でがっしりと太股を掴まれてしまい抵抗を封じこまれる。
「暴れんじゃねーよ!」
「嫌だっ降ろして!」
真っ先に思ったのは、こんな担がれ方をしたらスカートの中が見えてしまうという事。何とか、青年の腕から逃げ出そうと尚ももがき、更には背中を掌で叩く。
「ってーな! 女、いい加減大人しくしねーと、キレた俺様は何すっかしんねーぞ」
先程とは違う重みを持った声に、ビクリと体が震えて騒がしかった足の動きがぱたりと止まる。
「素直な女は俺好みだ。売るのは止めにして俺様のにするか?」
「な……何言ってるの」
「おーいギルー。見つかっちまったみてーだ」
今度は聞きなれないのんびりとした口調が聞こえ、のそのそと歩きながらこちらに向かってくる男の姿が目に入った。青年よりも随分と年上のよう。
「おっさん! 見つかったわりにはのんびりしすぎだっつーの!!」
「わりぃーなー。こういう性格なもんで」
頭をポリポリ掻きながら私達に近づいてくる男を凝視していたら、男と目が合う。頭にあった手を今度は顎に添え撫でながら、グイッと顔を一気に近づけてきた。