君がいるから
「おっかわいい嬢ちゃん見つけたな。それにしても……変な格好だな」
首を傾げながら、青年同様に制服に見入っている様子。ボサボサの長い黒髪、不精髭、切れ長の垂れた目元、服装は全体的にとてもだらしない格好。
(っというか……お酒臭い)
「おっ酒くせーか? 悪いな、嬢ちゃんよ」
お酒の強い匂いに顔を顰めたら、男は笑って腰から小さなボトルを取り出し、蓋を開け喉を動かし飲み始めた。
(この人達一体何者?)
「おいっいたぞ!! あそこだ! 周りを固めろー」
1人の掛け声と共に、騎士の人達が次々と武器を持ち、城の中から駆け出てくる。
「やべ。おっさんぐずぐずすんな、退散すっぞ」
「あーいよー」
男は慌てる様子もなくボトルの蓋を閉め、肩を回したり腰を回したり準備運動をし始めた。それから男の準備運動が終わってすぐさま、この得体の知れない男2人は森の方へと足を向け駆ける。もちろん、私を担いだままの状態で。
「嫌だ! 降ろしてってば!!」
「口開けてると舌かんじゃうよー。ギルは乱暴だからさー」
「おっさん飛ぶぜ!!」
「え? キャーッ!!」
青年の言葉を理解する間もなく、ぐんっ――と一度下方へ落ちたかと思えば、今度は先程とは違う浮遊感が私を襲う。みるみる視界の先の地面が遠くなっていくのを目にした時、青年が脚力を使い空高く飛び上がったのだと悟った。あのだらしない男の人も私達を追うかのように、飛び上がるのを目にする。
まさか人間が足の力だけで、こんなに飛ぶものなのかと理解が出来ない。気づくと、もう既に木々が生い茂る森の真上だ。その時、たくさんの騎士の人達が駆け寄り、一斉に武器――弓矢を構え始める。
(あんな大人数の弓が放たれたら、この人達と一緒に絶対に当たる)
「暴れんな!! 大人しくしろって」
危機感に迫られた私は、最後の力ばりに手足をばたつかせ、この青年の肩から逃れようと必死でもがく。
「全員攻撃を待て! まさか、あれは……」
真下で1人の騎士さんが大勢の騎士さんを指示している声が、空の上の私の耳に微かに届く。すると、構えられた弓は一斉に下げられ、皆が皆、空にいる私達を仰いでいた。