君がいるから
「シェリー?」
「ちゃっちゃんと、部屋に連れて行ったから大丈夫! だって、アディルがシェリーに頼んでくれたことだもん」
「ありがとう。シェリーに頼んでよかったよ」
自分を信じて疑わないアディルの柔らかな笑みに、シェリーの胸の奥で少しの罪悪感が襲い目を泳がせた。だが、それを無理矢理消し去り途端に頬を緩ませる。
「アディル、おかわりあるよ」
「じゃあ、淹れてもらおうかな」
大きく頷き、シェリーはポットを手にし、アディルの元へと駆け寄りカップへ温かいミファを注いだ。
「そうだ! 夜何して遊ぶ!? 今日はアディルのお部屋にお泊りしてもいい!?」
ミファを淹れ終えると、ポットをデスクに置き、アディルの首に両腕を回し甘えた時だった――。
バンッ!!
「アディル副団長!! 大変です!」
慌てた様子で部屋へ勢いよく押し入ってきた部下は、息を大きく吸い込み額には大量の汗が滲まんでいた。その部下の姿にただ事ではないと察し、シェリーの腕をやんわりと退け、先程までの柔らかな表情とは打って変わり厳しい顔つきに。
「何があった」
「そっそっそれが」
アディルは風を斬るように歩廊を駆け抜けていく。
『盗賊がこの城を徘徊していた所を見つけまして』
『ああ、例の盗賊か。その慌てぶりからすると、取り逃がしたか?』
『あの……はい。ですが実は、その者たちが逃げる際に異世界から来た少女を連れ去ろうと、空高く飛び上がり――』
『異世界の少女――あきなは、あきなが奴らに捕らわれたということか!?』
力いっぱいデスクを叩きつけ、椅子から勢いよく立ち上がるアディルの背後では、シェリーが目を丸くさせている。
『少女がその……奴らから逃れようと暴れたようで』
『落ち……たのか』
『はい。ちょうど、龍の洞窟がある森に。もしかしたらあの高さではさすがに少女は――ですが、今捜索を――って副団長!!』
最後まで部下の言葉を聞かずに、部屋を飛び出したアディル。
落下――部下の言葉が幾度となく繰り返される。さっきまで笑い、顔を赤くさせ、そんなたくさんの表情を自分に見せていたのに。部下の口ぶりでは、もしかしたら……。いや、今しがた耳にした事はきっと間違いだと頭を振り、その考えを消す。
だが、その時――胸の奥で眠っていた過去が、一瞬だけ過ぎってしまう。グッと拳を握り締め、最悪の場合を頭の片隅に浮かんだことを頭を振り消し、足を先へと急がせた。
「あきな!」