君がいるから











   * * *





「ん……」

 今誰かに呼ばれたような――。

 うっすらと瞼が開き、まだぼやけてる視界に緑色がゆらゆらと揺れている。

「あれ……ここ、わた……しは」

 呆然とする中、徐々に鮮明になっていく光景に、ここが何処なのかと目を泳がせた。
ぼやけた視界に飛び込んだ緑色の正体は、生い茂った無数の葉なのだと気づく。葉と葉の間から光が差し込み、それが眩しく目を細める。サワサワと吹く柔らかな風と、色んな箇所から鳥達の鳴き声が響く。

(ここ――天国……かな)

 こんなにも穏やかで心休まる場所はきっと自分は――そう思った時。 間近でガサッと草が擦れる音が大きく聞こえ、目を見開き驚きと共に上半身を起こした。

「違う――私生きてる……」

 手や指を動かし、体や顔をペタペタと触り確認をする。

「生きてる……よっか……た」

 安堵感で力が抜けたと同時に、瞼が熱くなり今にも涙が零れそうになったけれど、そこを指で瞼を押さえグッと堪えた。っと再びガサッと大きく音が聞こえ、体が反応する。

「誰……? そこに誰かいるんですか!?」

 見渡す限り青々と生い茂る木と草と葉。 何処で音がするのか辺りを見渡し、未だ全身に力が行き渡らない体をふらつかせながら立ち上がる。すると、今度はより近くで音が耳に届いたと同時に――。

「やっと見つけたぜ。ったく、暴れるからこうなんだよ!」

 木々の陰から、めんどくさそうな口調で姿を現したのはあの赤い髪の青年だった。その姿を目にした途端に身構え、ふらつく足が一歩後ずさる。

「今度は大人しくしてろよ」

「どうして私を連れて行こうとするの!?」

 私の問いかけに青年は、首に手を当て鋭い眼光を向けてきた。

「あ? 金と女は全て俺様のモノになるって決まってるからだ」

「なに……それ。そんな理由って」

「だからお前も俺様のモノ。そのうち俺様がこの世界の頂点に立つ宿命を持つ男だ。今のうちに俺様といた方が良い思いが出来るぜ」

(この人はさっきから何を言ってるの)

 そんな自分勝手な言い分をひょうひょうと口にする青年。

「さぁて、そろそろ追ってくっからな。っておっさんは肝心な時に何処行ったんだ!」

「かっ……」

「あ?」

「勝手なこと言わないで!!」

 グッと拳を握り唇を噛み締めて、青年へと言い放った。

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