君がいるから




「昨日みたいにこれ以上ワケの分からない事に巻き込まないで! 唯でさえ知らない世界に来てこれから自分の世界に帰れるまでって色んな事考えながら生活しようとしてるのにっ。自分勝手に人の事攫った挙句に勝手にあなたのモノにしないで!!」

 勢いに任せて言い放ち、息をする事も忘れていた為に、肩を使い荒く息を吸い込む。全てを吐き出し消化されて、徐々に冷静さを取り戻していく。

「お前、誰に向かってそんな口利いてんだ」

 眉間に皺を寄せながら私を睨み、額には血管が浮いて見えるような怒気が含まれた表情の主が目の前にいる。青年の姿にビクッと体が反応し、一瞬にして血の気が引く。

 一歩近づく青年――反対に一歩後へ下がる私。足が震えて力が抜け転びそうなるけれど、何とか踏みとどまりながら、後方へ下がり続けた。けれど、背に大きな木があたりそこで足が止まり、だけど青年は止まることなく距離を縮めてくる――。

「お~い、ギ~ル~」

 もうダメだと思いかけた時、のんびりした口調の男の声が聞こえ、青年の足が止まり視線を逸らされた。

「いたいた~。毒蜂の巣に顔つっこんじまったぜ~。参った参った」

 そう言いながら笑い、ボサボサの頭をガシガシと掻きながら青年の元へとやってきた男。

「どうした~。そんな怖い顔しちゃって」

「あぁ? この女に誰にもの言ってんのか分からせようと思ってな」

「なに、嬢ちゃんこいつキレさせちゃったわけ?」

 がはははっと声を上げて笑う男に、何が可笑しいのかと眉間に皺を寄せ睨む。

「胸くそ悪いんだ。これ以上俺様をキレさせんじゃねー」

「お~怖いね~。女相手にキレてたんじゃ世界の頂点に立てねーぜ」

 その言葉に青年は男の胸倉を掴み引き寄せ、睨みつけた。
だけど、男はその青年の睨みに臆する事無く、真っ直ぐ青年の瞳を見据えている。それがほんの数秒で、男の胸倉から肩へ移動し掌で強く押し離れた。腕を組み、舌打ちをした青年。

「っち! 酒くせーんだよ」

「そんなに匂うかぁ? まだボトル5本しか空けてね~ぞ」

「俺様たちの酒も残せよな!」

「また盗めばいいだろう。がはは」

 男が青年の頭をガシガシと乱暴な手つきで撫でた後、じゃれ合う2人の姿。さっきまでの怒りは何処に消えしまったのか、何故だか和やかな雰囲気が漂い始めた。

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