君がいるから
ゆっくり襖を閉めたと同時に、小さくため息が漏れる。
「親父、寝た?」
和室から出てきた私に、コウキが問いかけてきた。
「うん……」
襖の前で突っ立ている私は、力なくそう答える。
(やりたいこと……か……)
父さんに言われた事で、脳裏にあの時の事が過ぎってしまい、消し去ろうと頭を振りだした時――。
バコンッ!!
「いったーい!!」
後頭部に鈍い痛みが突然襲い、振り向いた先に雑誌を丸め持ったコウキがいた。
「静かにしろよ。起きるだろうがっ」
コウキが口元に指を立てて小声で話す仕草に、あっ――と気づき、慌てて両手で口を押さえる。襖に耳を当てて聞くと、どうやら起きた気配はない様子。ホッと一息ついて、頬をむくっと膨らませ、視線を再び背後に向け睨む。
「あんたがいきなり叩くからでしょっ! しかもそれ、思いっきり硬く丸めた雑誌でなんて痛いって!」
あくまでも、小声でコウキに言い放つ。
「ぼーっとしてるほうが悪りぃし」
背の高いコウキは、私を見下ろしながら鼻で笑って雑誌で自分の肩を叩く。憎たらしく感じる態度に私は唇をクッと噛み、鈍い痛みが残る後頭部を擦るうち、ふと過ったさっきの2人の姿。
「ねぇ? コウキさ、私が布団敷いてる間、父さんと何か話してた?」
「あー……何かいきなり父さんが『あきなもいつかお嫁に行くんだな~あははっ』とか言い出してさ」
「えっ!? 何でまたそんな話を!? っというか、全然父さんの真似似てないし」
「だから、声でけーって」
「ごっごめん」
予想だにしていなかった言葉に声が思わず出てしまって、再びコウキに注意され、これは素直に謝る。和室の前で話すのを止め、場を移動して私はソファー、コウキは床へ腰を下ろす。
「おっまだ、やってんじゃん。ほらっこれっ。一緒に見てたら、あんなこと言い出したんだぜ」
コウキが指し示したテレビの液晶に映っていたのは、私と同世代の女性アイドルが結婚会見をしている場面が映し出されていた――。