君がいるから




  * * *


 穏やかな日常。
 ガディスに住む人々や動物たちは毎日穏やかな日々を過ごしていた。戦という争いも存在はしていたが、それはとても小さな国々だけで起こり、大きな名の通った国々は活気に満ち溢れ、大勢の人々たちの笑い声やお客を呼び込む声、子供達が思い思いに遊ぶ姿。それは何処から誰が見ても、平和という二文字を思い浮かべるだろう光景。たくさんの緑が茂り水は陽の光に反射し輝き流れ、作物がよく実る国々が多く広がっていた世界。
 しかし、それはほんの一瞬の出来事によって音をたてて崩れ去った――。

 それは月の輝きが一層増す夜陰。夢の中に落ちた人々は、目を覚ませばいつものような穏やかな日々が訪れる――そう誰もが思っていただろう。
 それぞれの大陸で突然の爆音が鳴り響き、そして1つ――また1つと国々が一瞬にして滅んだ。爆音の中心にあった街や村は壊滅状態、その地はほぼ原型がなく茶の色が広がっているだけになった。そうして、穏やかな日常から絶望の日々へと変化を遂げる。悲劇は起こり続け、いつくもの国が次々と滅びゆく。それは決まって、夜陰の時だった――。
 人々は眠ることを恐れ、睡眠を削り恐怖から必死に逃げ惑った。だが、1人また1人と息絶えていく現実。
 その悲劇は数ヶ月にも及び、命拾いをしたとしても病や感染病などで家族や友が倒れていく姿を、生き残った者は恐怖に体を震わせ見ているしかなく、それは胸の奥深くに忘れることの出来ない傷を作った。
 だが唯一、被害が極僅かで免れた国がある。それは――シャルネイ国。
 不思議とこの国は、突然の爆発により家屋は燃え倒壊することはあったものの、シャルネイに住む人々は軽傷や軽い火傷を負った者だけ。城下町を見下ろせる場所に建てられている城も、外観がひび割れた程度。
 それはとても誰もが不思議に思う光景。だが、誰もが口を揃えて言い放った。
 この国だけが紅い光に守られ続けていた――のだと。
 その実態は未だに解明はされてはいない。無論、爆発の原因さえも不明のまま。
 だが青い空が広がったある日の事だった。1人の町人がふと空を仰いだ時、周りにいた皆に空を指し示し伝えた目先には――。
 青い空に不似合いな深紅――まるで血の色に染まったような巨大な紅い月が。


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