君がいるから
誰もが息を呑む。いつの間にこんなに巨大化してしまったのかという思いと、紅い月の妖しく輝く不気味さに、誰もがもうこれ以上悲劇が起こらないようにと、ただ祈った――。
その願いが届いたのか、人々が見えない恐怖から逃げる日々が終わりを告げた。
――月日は流れ、各国々は生き残った者達で再建をし、徐々に笑みが出始め元の穏やかな日々を過ごせるようになる。しかし、胸の奥深くに刻み込まれた恐怖と悲しさは、癒されることはなかった。
そして、これはあきながこの世界へと来る数日前――。
シャルネイ国はいつもの日々の朝を迎え、みな日常を過ごしていた。だが、得体の知れぬ甲冑を身に纏った、数え切れないほどの兵士がこのシャルネイ国を襲撃。次々と町人達は斬りつけられ息絶える。傷の痛みに苦しむ声と、泣き叫ぶ子供、逃げ惑う人々の叫び声が交じり合う悲惨な光景が広がる。
その騒ぎにアッシュやアディルを先頭に、城の騎士たちが町人を守りに出動。兵士の数は、騎士たちの何倍もいるにも関わらず、みな剣を手に立ち向かった。
その中にはシャルネイ国国王ジンの姿もあった。
騎士たちは次々と兵士を倒していく中、純白の服を身に纏いそれとは真逆の漆黒の髪を持つ男。この最中、不似合いな足取りで歩み寄ってくる姿がジンの目に入った。
「お前が頭か!! 何故こんなことをする!!」
ジンと向かい合うように立ち止まった男の瞳は、無機質で冷酷な光を宿さない黒色。
「なかなかやるではないか。これほど兵士を減らされるとはな」
「答えろ!! お前達は何が目的だ!? 何者だ貴様!!」
ジンが荒く怒りを含む叫ぶ声に対し、顔色1つ変えない男は己の背後にいる者に口を開く。
「兵を下げろ。このくらいでよいだろう」
「御意」
問いに答えることなく去っていこうとする男に、ジンは剣を強く握り構え男に向かって走り、男の背に剣を勢いよく振り下ろした時だった。
キ――ンッ
剣の刃同士が当たった高音。ジンの目前には、銀の髪を持つ青年がジンの剣を受け止めていた。