君がいるから


「なんて力だ……っ」

 力が入る拳が震えるのは、思いがけない程の力がジンの剣を押し返してくるから。ジンも負けじと必死で青年へと剣を押すが、ギギッギッと耳障りな擦れ合う音が強くなってくる。

「なぁーんだ。王って位だから強いかと思ったのにさぁ。大したことないなんて、つまんない」

 青年は不気味に微笑みながら、平然と息も乱れず喋り、額から汗が滴り落ちるジンとは正反対だ。

「くっそ!!」

「あーぁ、こんなんじゃ王としてダメなんじゃない? ねぇ、我帝国の皇帝さん」

 青年は背後にいる男に視線だけを向け問う。

「今は殺すな」

 こちらを見ようともせず、それだけを言い残し立ち去ろうとする男。

「待て!!」

 ジンの呼び止めに応じ、光が宿らない瞳だけを向け言い放つ。

「我が名はゾディック帝国皇帝、シュヴァルツ=D=ルゴラ。今のお前の力では我に掠り傷一つ付けられん」

「ゾディック帝……国だと」

 目を細め数秒ジンの姿を据えた後、男は兵士達が開けた道を歩み去る。

「おい。行くぞ」

「分かってるよ。あぁあ、本当つまんない」

 黒いフードを目深に被る男の声で、青年は一瞬の隙をつきジンの腹へ蹴りを入れた。その衝撃に、ジンの体は数メートル先に飛ばされ、それを目にしたアッシュやアディルが共に声を荒げ、ジンは苦しそうに顔を歪めながら咳き込む。青年は剣を鞘に収め、首を回し肩に手を置くとジンを見下すような視線を向けた。

「また来るから。その時までには強くなっていてくれないかなぁ」

 "そうじゃないと僕が楽しめない"

 蹲るジンに言い放ち、青年は兵士達に声を掛け、シャルネイ国から去った――。
 残されたのは、赤の色に染まる無残な姿の町人、傷を負い痛みに耐える者、子供を抱きかかえただ震えている者、剣を持ち息を切らせる騎士達の姿。そして、片腕で腹を押さえながら悔しそうに顔を歪め、地に着いた拳に力を込めるジン。
 突然起こった惨劇の後、盗賊が食物、金、女を狙いこの国を襲うようになる。その中にはジンの命を狙う者までもが出始めていた。騎士に捕らえた盗賊は数知れず、盗賊達はみな城の地下牢に入れられ、王自らその者たちに問い糺す。

「お前達の狙いは何だ」

「……ある男に……頼まれた」

 腕を後に回し鎖で繋がれた盗賊が口にした名は――。

 ―――シュヴァルツ=D=ルゴラ―――


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