君がいるから
* * *
「他の大陸から来る盗賊も多かった。金品などと引き換えに王の命を狙っている」
「…………」
アディルさんの紡ぐ言葉にただ聞き入っていた――。
「老様や長があきなを警戒しているのは、その事が大きな理由なんだ」
「え……?」
天井をジッと見つめていた紅い瞳の視線が下り、私へと向けられた。
その瞳の色はとても切なげに揺れている。
「盗賊の中には、これまで女性やまだ事の重大さを分からない子供までもがいたんだ。その現状に皆、驚きを隠せなかったよ」
(そんな……子供まで……)
「奴等はどんな手でも使う最低の人間だ。しかし奴等の居所も目的もまだ俺達は掴めてない。だから、皆気持ちが落ち着かずストレスも溜まってる」
「そうだったんですか……」
「多少なりとも昔からの性格もあるけど、長があきなにああいう態度を取るのは、誰よりもこの国を大事に思っているからなんだ」
"守りたいって、気持ちが誰よりも一番強いんだあいつは"
言葉の最後に付け足したアディルさんは柔らかく微笑む。
「そうですか……。でもアディルさんは? どうして私にこんな親切にしてくれるんですか」
とても不思議に思う。現在、そのような状況なら素性も知らない私に優しくしてくれるのかと。ましてや、この世界の人間じゃないなんて話も受け止めてくれた――。
「どうしてって……」
私の問いにキョトンとした顔のアディルさんの表情は柔らかに微笑み、肘を机に着き手の甲に顎を乗せて口を開いた。
「俺の勘」
「かっ勘!? 理由はそれだけですか!?」
「そっ」
予想もしていなかった返答に、驚きを隠せない私とは反対に微笑みを崩さないアディルさん。
「俺の勘は昔からよく当たるんだ。それに可愛い女の子だったから」
ぐいっと急に双方の顔の距離が縮まり、目前でにっこりと微笑むアディルさん。
「勘が昔から当たるからって。だからってそう簡単に……それに、さっ最後のは私をからかってますよね!?」
頬を少し膨らませて、アディルさんの胸を両手で押し返し距離を取る。
「俺はあきなをからかってるつもりないんだけどなぁ」
さっきまでの重い雰囲気は一体何処へと、長めのため息をついた時だった――。
――――っ。
「誰っ!」
ハッと目を開き、自分でも何故だか気づきもしないまま、勢いよく天井を見上げる。