君がいるから
部屋の奥へと進み、鞄を置いてあるソファーに体を落した。柔らかなソファーは、乱暴に落とした私の体をどんどん柔らかく包み込んでくれる。
「はぁー気持ちいい……」
深く息を漏らした後、ふと窓の外を見遣ると、もう日が沈みかけ赤オレンジ色と濃紫のグラデーションが空に広がっていた。呆然と何も考えず、ただ窓外を瞳に映すだけ。そうし続けていたら、瞼に熱が帯びてきて――。
あとどのくらいこの世界にいるんだろう……。みんな心配してるかな。父さんもコウキも、ごはんちゃんと食べてるといいな。秋山もうすぐ試合だって言ってた。練習、きっと必死になって頑張ってるよね……3年で最後の年だからって張り切ってたし。由香も……きっと心配してるよね、ずっと一緒だった――由香はいつも強気だけど、本当は寂しがり屋で泣き虫だから、もしかしたら泣いてるのかもしれない。でも、由香よりも私の方が泣き虫だから、そんなこと言われたくないって由香は言いそう。
『馬鹿あきな!』っと怒る由香の顔が思い浮かび、微かに頬を緩めたのはすぐ消え去り、瞼をギュッと瞑る。ソファーに足を乗せて、膝を抱え込み顔を埋めた。
皆に会いたい。大切な人たちの笑顔が浮かんでは消え、そう小さく呟いた――。
コンコンコン
扉を叩く音に、身体を震わせおずおずと顔を上げる。
「あきな様? お戻りになられておいでですか?」
扉の外から聞きなれた声に、目元を掌で拭い、ソファーから下りて小走りで向かい扉を引き開く。開かれた扉の向こう側に、穏やかな表情のジョアンさんの姿があった。
「あきな様、お体の方はいかがですか?」
「少しだるさはありますが、これと言っては……それを言いにわざわざ来てくれたんですか?」
「それもありますが……こちらをお渡ししようと。先ほどお部屋に伺ったのですが、まだお戻りになっていなかったようでしたので」
そう述べた後、ジョアンさんの両手の上に乗せられ丁寧に畳まれた淡い水色の布地が差し出された。
「うわぁ、綺麗。あの……これは?」
「あきな様のお着替えです。あきな様の少しお召し物が汚れていらっしゃるようなので」
「へ?」
ジョアンさんに言われて、すっとんきょな声を上げ、自分の制服に目を遣る。
「きっ汚い!!」
スカートには小さな染みが所々に付き黒く変色していて、白いシャツの胸元やブレザーの袖にも茶黒や緑の点が疎らに付いている状態に思わず声が大に。