君がいるから
* * *
「ね……ち……? 姉ちゃん!?」
「ん……?」
体を強く揺すられ瞼をうっすら開けると、ぼやけた見慣れた顔が映り込んでくる。
「あれ? コウキ?」
「親父、何時に起こせって!?」
「父……さ……ん?」
「完全に寝ぼけてんな」
コウキは呆れた表情で私を見下ろしてる。でも私はというと、まだ開ききってない目を瞬かせて、ただぼんやりと――。
「今、何時!?」
「21時45分」
「父さん、起こして!!」
(何で寝てんのっ私!)
ガシガシ頭を両手で掻いた結果、髪の毛は爆発。そんな事を気にする余裕もなく、コウキに父さんを起こしてもらってる間に、私は予め用意してあった父さんの着替えを入れたバックに歯ブラシや髭剃りなどを追加。忘れ物がないか何度もチェックしてる内に――来客を知らせる音が鳴り響く。インターホンのモニターを覗き見ると、父さんの秘書である梶さんの姿が。
「はいっ!」
「夜分遅くにすみません。副社長をお迎えに参りました」
「いつもお世話になってます!! すぐに降りますので!」
「こちらこそ。時間にはまだ余裕がございますので、慌てなくとも大丈夫ですよ。車でお待ちしております」
梶さんとインターホン越しに会話を終えて、父さんの元へと急ぐ。
「梶さんが迎えに来ちゃった!!」
「そうかぁ、相変わらず梶くんは時間通りだな」
家中に響き渡る声に、和室からひょっこり顔を出した父さんはまだ眠たそうな目を擦りながら、ネクタイを締めている。
「少しは眠れた?」
「あぁ、眠れたよ。ふかふかの布団はやっぱりいいなぁ」
「また、お日様にたっくさん当てとくから」
「ありがとう」
そんな会話をしながら程なくして準備が終わり、父さんに笑われた爆発した髪は手櫛で直し、荷物を持って皆で外へ――。
「それじゃ、いってくるよ」
車の後部座席に乗り込んで微笑む父さんの姿は、パリッと糊で仕上げられたYシャツにオーダーメイドのスーツを着こなす、その雰囲気は帰宅した時とは真逆だ。
「いってらっしゃい! ちゃんとご飯食べてね、あと睡眠も」
「土産、期待してるから」
「毎回土産の催促しかしないんだから、コウキは」
コウキのわき腹に軽く肘で一発つく。
「ははっ、分かってるよ。戸締りや火の元に十分に気をつけてな」
「はい、了解です」
そう返事をしたのち、運転席に座る父さんの秘書である梶さんに視線を向ける。
「梶さん、父さんのことよろしくお願いします。今度、夕食を食べに来てくださいね」
大したもの作れませんが――そう付け足し、梶さんはにこりと微笑み会釈をしてエンジンをかける。私達はゆっくりと動き出した車から離れ、その姿が見えなくなるまで見送り続けた。