君がいるから
頬を撫でていく暖かな風――。
(風!?)
目を開いた先に広がっている空間は、先ほどの赤ではなくなっていた。見上げれば、青い空が一面に広がり、眩しさに一瞬眩暈が襲い、下方に視線を落せば青々と生い茂った草。代わる代わる何処とも分からない世界に飛ばされ、更に頭の中が混乱し続ける。
「一体……何なのっ。 私を……どうしたいの!?」
叫んだ私の声は、無情にも穏やかな風に溶けてしまう。
「誰か……答えてよ……。私は知りたいだけ。シャルネイに来た意味も、こんな知らない場所に飛ばされてしまう理由も。だから……誰か私に教えてよ」
一気に孤独感が私を襲い、力なく膝を折りしゃがみこんで蹲った。
さぁーっ。私の周りを、今しがた吹いていた柔らかな風と打って変わり、強く吹く風が通り過ぎていく――。
――汝。名はなんと言う――
(……開口一番に、それ?)
直接、頭に語りかけてくるような声に、体が小さく応えた。
――我の声が聴こえるか――
(聴こ、えてる……)
――答えてはくれぬか?――
膝を抱える両の拳に力を込めて、一層強く自身を抱き、ハッと息を吸い込んだ。
「あなたなんでしょ!? 私をここに連れて来たのは! 声を掛けてきたかと思えば、最初の言葉はそれなの!? 私は理由が知りたい!! ここに私が来なければならない理由が知りたいのにっ。誰も何も……」
膝に顔を埋めたまま、くぐもった叫びは自身に強く大きく返ってくる。煩く響く自身の声に構わず、開かれた口は止まらない。
「何故なの!? 変な空間に移動させられて……知らない場所に飛ばされてっ。あなたは私に、私にっ」
(私に何をしたいの? 一体何の為に――)
――すまぬ――
一気に捲くし立てた後、謝罪の言葉が消え入りそうな声で私の耳に届いた。謝ってほしいわけじゃない――そんな言葉さえ今は出すこともしたくなくて、きつく唇を噛み締める。
「…………」
――面を上げてはくれぬか。汝と話がしたい――
自身を抱きしめる腕。噛み締めるように固く結んだ口。知りたいと願ったのは、私。もう一度力を込めてから、膝を抱えていた腕を離してゆっくりと顔を上げた。