君がいるから
これは母さんが、私にって病院のベットで手渡してくれたもの。
「それって、指輪を捨てろっていうこと!?」
――否。指輪を捨てる事は不可能だ。汝はもう、この"運命"から抜け出すことは出来ぬ――
「運命って!? いつも夢に出てくる光景は、一体何を意味しているの!? 私にどうしろっていうの!? この指輪とどんな関係があるの!?」
一気に捲くし立て、空気を吸うことも忘れて言い終えた後、刻みながら肺に空気を送り込む。その間、厳しい眼差しで光の球体を見据えた。
――今ここで、汝に全てを明かすことは出来ぬ――
やっと――知れると思った。でも、予想していなかった答えが返ってきて、身を乗り出しながらもう一度口を開く。
「どうして!? 伝える為に私の前に姿を現してくれたんじゃないのっ?」
――すまぬ。まだ時は経っていない。そう、全てはまだこれから始まる――
「全然っ分かんない!! 分かんないよ……そんなんじゃ」
前を向いていた視線が足元へと移動し、両の掌をギュッと固く結んだ。瞼にじわじわと熱が帯び始める。
――あきな――
名を呼ばれたけれど、相手が私の問いに何も答えてくれないのならと口を閉ざす。
――今し方見せた光景は、あきな、汝に知っていてほしいこと。そして、どうか忘れないでいてくれぬか――
そうやって、自分勝手に言い分を並べる。私が知りたいことは何一つとして、答えてはくれないのに。
――この世界で"動き出した運命"はもう後に引き返すことは出来ぬ。しかし、あきな――
「――運命、またそれ? そんなの、私には関係ない」
――否。全てはあきな、汝に託されたのだ――
(私に託された……?)
一度手の甲を瞼に押し付けてから、ふと顔を上げる。
――そろそろ時間のようだ――
そう言った球体が、光を放ち形そのものがうっすらと消えていく様に、慌てて駆け寄った。
「待って!!まだあなたにはっ」
――全てはもう動き出しているのだ。紅の月が重なりし時、古、過ぎ去りし時間(とき)辿る運命へと汝を誘(いざな)うであろう――
その言葉と共に、発光は強さを増し、もう球体の形そのものは見えない。駆け寄り光に触れようとしたけれど、白い光が小さな無数の粒となり弾け、眩しさに絶えられず瞼を固く閉じた――。