君がいるから
「怪我っ大丈夫ですか!? あんなに苦しそうに息もしてたのにっ」
膝を床に着いたままの低姿勢で王様の傍に寄り、上から下まで全体をくまなく見遣るけれど――。
「一つもない、治ってる……? 呼吸も戻ってる」
何処を見ても、傷一つ残っていない。それにあんなに苦しそうにしていたのに、今では平然とした姿にその場で動きを止めた。
「騒がしい奴だな。お前は」
「あ、っと、すいません……」
「まぁ、それだけ元気があれば心配はいらないな。それと、とにかくこれを離してくれ」
王様の指がちょいちょいと下方へ視線を促してきた。首を傾げたまま、指し示された方を辿っていく。
がっしりと王様の腕を掴み――互いの距離があまりにも近くて、その状況に気づいて体温が急激に上昇。慌てて逃げるように、後退して間を空ける。
「ごごごごご、ごめんなさい!!」
「本当に変な奴だな。表情がコロコロとよく変わる」
口端を軽く上げて、さっきの体勢から両膝を左右に開き、両足を組んで座った王様。
「ヤダリの毒じゃなくとも、城近辺の葉の毒は抜けても痺れ等が多少残る。2日経ったとはいえ、お前のように声を張上げるほどの元気を持った者は滅多にいないぞ。まっ俺もお前と似たような体質だがな」
そう言った瞬間に、柔らかな微笑みが私に向けられた。
「……ぅわ」
思わず声となって出て、そのまま見つめて固まる。
「人の顔をじろじろと見すぎだ」
少し照れたように視線を外す王様が、何だか可愛らしく思えた。私よりも歳が上の人に――もとい、男の人に可愛いはないのかも。
「すっすいません。でも、王様ってそんな風に笑うんですね」
自然と頬は緩んで満面の笑みが零れ、目前の相手に向けて言う。すると、王様がさっと顔ごと背け、口元に手の甲を当てた。その様子に、気に触ることでも言ってしまったものかと、不安がよぎる。
「あの……私、何か余計なことでも言ってしまいました……か?」
「いや……別に」
王様の顔を覗き見ても逸らされ、全然こっちを見ようとしてくれない。ふと、逸らされた顔とは違って、こちらに向けられた耳がほのかに――色づいている。
「もしかして……照れてます?」
何気なしに放った一言で、小さく咳払いをした王様。その様子が本当に可愛らしく思えて、つい声を出して笑ってしまった。