君がいるから


 私の小さな笑いを見て、もう一つ咳払いをする王様は、床に置かれたあの黒の剣に触れ口を開いた。

「それで?」

「それでって?」

「話の続きだ」

 話の……って――首を傾げ、記憶を辿る。

「あ、すいません。どうしてここにいるのかっていう話の途中でしたよね」

 話を逸らしたのは私なのに、顔を引きつらせながら笑ってごまかす。だけど、王様はさっきまでの表情は何処かへ行ってしまったようで、元の真剣な面持ちに変わっていた。

「えっと、それで何処からだっけ。うーんと……あっ、ここに入ったら王様が――もう1人いましたよね?」

 どこまで話したかを思い出しながら喋り始めると、思い浮かんだのは王様の2人の姿、互いに剣を交えていたことを問う。

「あの人は誰なんですか? 見た瞬間、偽者に思えなかったんです」

「あれか」

 おもむろに立ち上がり、触れていた重々しい剣を片手で簡単に持ち上げ、担ぐように肩に乗せてしまう。その仕草に目を奪われていると、予想していなかった言葉が降ってくる。

「あれは俺だ。言っとくが、双子ではないぞ」

「へー……え!?」

 私はたしかに、偽者に思えないとは言ったけれど、理解し難い事にぽかんと口が開いたまま。

「え? え? 王様って2人いるんですか!? 双子でもなくて……? あの、分かるように説明をお願いします」

 同じ人物が互いに剣を交えるだなんて、到底無理な話。

(ドッペルゲンガー? 異世界って同じ人物が存在するの? というか、地球にも自分に似た人物が3人いるとは聞いたことあるけれど、まさか、実際にこう対面するもの?)

 自分なりに解釈しようとすればするほど、頭の中がグルグルと回った。

「お前。変なこと考えてないか?」

「頭が痛いです」

「……はぁ。あれは"魔法で具現化"した俺の分身だ」

「魔法!?」

 RPGのゲームで聞くけど、私はあまりゲームをしないから聞き慣れてない。だから驚きのあまり、口が開きっぱなし。

「まぁ、正確には魔法というより"術"だな」

「術? じゃあ、王様も魔導士さん達みたいに何でも使えるんですか」

「いや。俺は治癒や分身を作るぐらいしか出来ない。魔導士ではないからな、それ以上のことは不可能だ」

 本当に違う世界に来てるんだと、改めて再認識する私。


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