君がいるから


「すごい、治癒も出来るんですね。 それで怪我が一つもないんだ」

「俺の場合気休めだ。だが、俺も病み上がりで少しやばかったが、シェヌ爺に貰った即効性の薬で何とかな」

「病み上がり?」

「俺もお前と同じ葉の毒にやられた。両手がふさがっていて、気づいた時には既に肌は切れていた。お前を抱えて森を抜け出した後の事は、あまり覚えてはいないが。アディルの話だと、そのまま倒れたらしい」

 平然と流すようにさらりと言う王様。両の手を重ね握り締め、目を伏せる。

「ごめんなさい。私のせい……ですね」

「別に、お前のせいじゃないさ。謝る必要はない。避け切れなかったのは俺の責任だ」

 そう言われても原因は私にあると、再び謝罪を口にしようとした時、王様が剣を肩に担いだまま、もう片方の手を腰に当てた。

「ところで、お前はここで何故寝てた」

 唐突に問われた事に、目を瞬かせる。

「俺の横で寝てたのは何故だと聞いてるんだ。寝てたというより気を失っていたようだが」

「それは――」

 視線を伏せかけた時、王様が手に持っている剣が目に映り、人差し指で示す。

「その剣っ」

 腰を上げて王様の傍へと寄り、剣へ触れようと手を伸ばしかけたけれど、触れる寸前で手が止まった。

「この剣がどうかしたか」

「さっき、この剣に触れた時、ある空間に飛ばされて……そこで白い光に会ったんです」

「白い光? 何の話をしてるんだ」

 片眉を寄せ、話の内容が見えないと首を傾げて私を見る瞳。

「剣を降ろして……もらってもいいですか」

 王様に問いかけると、何も言わず剣を降ろしてくれて、床にキンッと剣先が当たり音を立てた。間近で剣を目にして、息を呑み込む。

「また、あの光に会う。そしたら……この世界に来た意味がきっと分かる」

「おいっ説明しろ。話がまったく見えない」

 剣を見据えたまま、おもむろに口を開く。

「紅の月が重なりし時、古―過ぎ去りし時間(とき)辿る運命へと汝を誘(いざな)うであろう」

「……何だそれ」

「白い光の声に意識を失う前、そう言われました」

 真っ直ぐ目前の剣に視線を注ぎ、唇を一文字に結ぶ。

「これにもう一度触れば、もしかしたら元の世界に帰れる方法が分かるかもしれない」

 いつの間にか、剣から遠ざかっていた指輪をしている左手を伸ばす。下ろしている右の拳に力を入れた。爪が掌に食い込むような強さで――。


< 159 / 442 >

この作品をシェア

pagetop