君がいるから
車の姿が見えなくなり、コウキはう~ん――っと両手を上げて背を伸ばし首を回した。
「そんじゃ、俺も行ってくるわ」
「うん、気をつけて」
「ってか、すぐそこだし」
「あっ、そっか」
そう言いコウキは背を向け、軽く手を振る。見送り家の中に戻ろうと、体の向きを変える。
「姉ちゃん!」
忘れ物かと思い、コウキが行った方向に体を軽く捻り見る。
「どした? 忘れ物?」
「いや。何かあったら、すぐ連絡して!」
「分かった! 明日休みだからって帰るの遅くならないようにね」
「はいはい」
そう返事をして、コウキは走って行ってしまった。コウキの後ろ姿を見届けて、今度こそ家へと戻る。
コウキはいつも口では生意気なこと言ったり、私のことからかったりすることが多いけれど、でも実際は優しい一面もあったり。父さんと出かけるのが重なった時、必ず父さんを見送ってから出かける。私が少し遅くなった時は家のことを出来る範囲でやっていてくれ、夜道が危ないからと迎えにも来てくれたことも幾度となくあった。
コウキは人一倍寂しがりで、家族がいなくなるのを1番恐れているのかもしれない。私たち家族は互いに不安を募らせ、人の"死"をとても怖く思う。でも、信頼し愛しいって思える家族。父さんと母さんの子供でよかったなぁ……私もいつかそう思ってもらえるお母さんになりたい。
ある程度片付けも終えて自室に入るなり、鞄の中から音が鳴っているのに気づいた。鳴り続ける携帯をのん気に手に取り、ディスプレイを見遣る。
「由香だ。何だろうこんな時間に」
通話ボタンを押して受話口に耳を当てる。
『あきなー? やっと出た。さっきから鳴らしてるのに、全然出ないんだもん』
「ごめん、ごめん」
(ずっと鞄に入れっぱなしだったから聞こえなかったんだ)
『慌ててあきな帰っちゃったから、言い忘れてたんだけど。明日、職員室来てくれって担任が言ってた』
「そうなの!?」
『進路のことじゃん、たぶん。まぁ、今日の堂々とした昼寝の件もあるかもよ』
「あー……って、用件それだけ? メールでよかったのに」
『電話の方が早い!』
「でも、他にも話あるんじゃない?」
『バレたか! あははっ』
由香と他愛も無い話をしながら、火の元チェックと戸締りを確認。そして暫くして――気づいたら、私はうとうとしながら由香の話を聞いていて、何を喋ったのか翌日覚えていなかった。