君がいるから
もうあと僅かで、触れそうになった時だった。甲に一回り大きな手が、私の手の行く先を遮るように重ねられた。
「王、様……?」
傍らに感じる視線にゆっくりと面を上げたら、漆黒の瞳と出合う。
「震えている」
「…………」
(震えて……る? 誰が?)
そう言われて、ゆっくりと視線を落とした先には、微かに震えている私の指先。
「はは、本当だ。変ですね、ただ触るだけなのに」
この震えがおかしいことのように、空笑いをして手を引こうとしたけれど、大きくて温かな手にキュッと力が込められ、抜け出すことは出来なかった。握り締められている少し冷たい自分の手は、包み込んでくれている温もりに戸惑い、再び腕を引くも今度は王様の傍に引き寄せられてしまう。
「あの、王様。手をっ」
「怖いなら、怖いって素直に口にしろ」
王様と私の声はほぼ同時で、王様の言葉が私の動きがを止める。
(怖い……? 何で? だって私が、ここにいる理由が分かるかもしれない。元の世界に帰れる方法が分かるかもしれない、だから私は)
「私は、怖いなんて思ってません!」
次第に顔は俯き、髪でその表情は隠しながら言い放つ。すると、さっきよりもまた力が込められてたのが、肌を通して伝わってくる。
「なら、何故こんなに震える必要がある」
「っそれは……とにかく私は知りたくてっ。家族も友達もいる元の世界に早く帰りたいから!! この剣に触れれば、またあの光に会えるんです。今度こそ真実が分かる……だから、手を離して下さい」
徐々に声量が増した声が、広い空間に響き渡って消え、ひんやりとした空気が私達を纏う。何故、自分はこうもムキになって王様に怒鳴ってしまったんだろう。じわりと後悔の念が生まれ、顔を上げるどころか更に下方へ落ちていく。
手にあった温もりが離れ、ほんのりと温かくなった肌が冷たい空気に晒される。怒らせてしまったのだと唇を噛むと、今度は頭に重みを感じ、すぐさまそれは数回弾む。
「俺はお前に言っただろ。必ず元の世界に帰してやると」
やんわりと温もりが伝わってくる。
「大丈夫だ」
優しさを含んだ王様の声は、静かに私の心に沁みこんでいく。最後に"信じろ"と付け足された言葉と共に、震えは次第に治まっていった――。