君がいるから
剣へと伸びていた自分の手を、顔は俯かせたままさらりと落とす。
そして、足元を見下ろしていた視界に入ってきた自身の手にふと気づく。
「――あ」
小さく漏らした声の後で、下ろした手をもう片方の掌で包むように持ち上げた。惹かれたのは、目の前に持ってきた左手中指に通された指輪に埋め込まれている赤い石。
「ひ……かって……る」
赤い石がぼんやりと光を放っている事に驚く。光を帯びているにも関わらず熱を一切感じないことにも――。
「さっきと違う。この間もこんな風じゃなかった」
「その指輪は――それは母上から貰ったものだと言っていたな」
指輪を食い入るように見つめていたら、王様は覗き込みながら問いかけてきた。
「はい……そうです」
「お前の世界にいた時も、こんな風に光を放ったりしていたのか?」
王様の問いに、軽く左右に首を振る。
「いえ……こういうことが起きたのは、この世界に来てからです。それに」
「それに、なんだ」
「この指輪が赤い光を放つ時は、強い強い熱があって。でも今は……それが全然ない。こんなこと初めてで」
指輪を撫でるように触ってみても、熱を一切感じない。今みたいにこうして落ち着いて、触ることなんて出来なかったのに――何故。
「よく分からないことだらけで……自分でも説明のしようがないです。きっと、あの球体が全てを知っているような気がします」
私の話に今度は反応を示さなかった王様が、私と距離を取ったのを目にし、再び指輪へと視線をやった。
今こうして光を帯びているのなら、もう一度剣に触れればあの球体に会うことも可能なのかもしれない――。会って聞かなければいけない。でも。
ヒュッ
空を裂く音を耳にして視線を上げると、剣を斜めに掲げながら王様が目を伏せている場面を目にする。
(何するんだろう?)
王様の行動を見守っていると、グリップを握っていた手を広げた瞬間――。その手にあったはずの剣があっという間に、跡形もなく消えてしまった。