君がいるから
四方八方に目を移すけれど、どこにもその姿形はない。王様の姿を映して、ぽかんと口を開く。
「また、消えちゃった」
この間も王様はまるで手品のように、剣を消してしまっていた事を思い出す。
「前にも同じことを言っていたな」
「あの剣は一体何処に行っちゃったんですか? あんな大きな剣を一瞬にして隠すことなんて出来ない筈なのに」
首を傾げながら問いかけ、王様は自身の掌を開いたり閉じたりを繰り返す。
「姿形は見えていないが、常に俺の手の中にある」
「手の中、ですか? あんなに大きな剣が、王様の手の中にある……?」
「あぁ。俺とヴァインは一心同体なんだ」
説明してくれる内容は、まるで理解出来ない。
(剣は王様の手の中。だけど、いつもそこにある? ん? あるけど見えない)
何度も繰り返してみても到底私には理解出来ないと、腕を組んで眉間に皺を寄せ唸ってみたり、口を開け呆けた状態で首を傾げた。
そんな時、鼻で笑う気配がして、その主へと目を遣ったと同時に、微かに緩んでいたであろう表情は真顔へと変わっていた。
「今、私の顔見て笑いました?」
「いや?」
「嘘だ。絶対今笑いましたよ」
「笑ってなどいないと言っている……ただ」
腕を組み、唇が緩やかに弦月の形を描き、あどけない表情が浮かぶ。
「そんな、まぬけな表情をしてるのを初めて見たと思ってな。その方が似合っているかもしれないぞ」
(まっまぬけ!?)
「やっぱり、人の顔見て笑ってる!」
「さぁ、どうだかな。くくっ」
「今、笑った! 笑ってないって言ったのやっぱり嘘だったじゃない。人の顔を見て笑うなんて酷いっ」
頬を大きく膨らませたら、王様は傍まで歩み寄ってき、頭に手を乗せられた。
「その方がいい」
「へ!?」
王様は腰を少し屈めて、私と同じ目線で顔を覗き込んでくる。端整な顔が間近にあることで体の動きが止まって、目をパチパチと瞬きを何度も繰り返す。
「それがお前の素だろ?」
一国の王である方に向かって、敬語を使わなかったことに気づき慌てて口元を押さえたけれど、時は既に遅し。