君がいるから
* * *
2人分の靴音が交じり合いながら、薄暗い歩廊を歩いているのは私と。チラッと肩を並べている人物を垣間見る。王様と肩を並べて歩くなんて、何とも不思議な気分。
「っ!!」
前方を見ていたはずの漆黒の瞳が突然向けられ、どきっと胸が高鳴ってしまう。驚きのあまり速度を上げた鼓動を抑えようと、胸に手を当てる。
(び、びっくりした……ジロジロと見すぎてたのかな、私。気を付けよう)
「お前の住む処はどんな世界なんだ?」
鼓動を抑えようと必死だった時、突然問いかけられジンを見上げる。
「へ? 私の?」
「お前のと言っただろう」
「はははっそうだね」
空笑いをしながら、どう話そうかと少し考えた後、まずはと口を開く。
「えっとまず……私のいる世界は"地球"って言うの」
「ほう」
「それで住んでる国が"日本"って言って、住んでる地域が"東京"っていうの」
「ニホン……に、トウキョウ?」
私の言葉を反復するものの、いまいち理解しがたいのかジンの表情は少し不思議そう。続けてガディスと地球が共通してることは、たくさんの人や風、水、草木、空気――が存在していると話す。それからゆっくりと、学校や車やお店や流行ってるものなどを掻い摘んで、ジンへ身振り手振りで説明。
「お前の国には、シャルネイにないものもばかりあるんだな。楽しそうだ」
「うん。まぁ、それなりに楽しんでたよ」
それ程日は経っていないのに遠い昔を懐かしむように、口にする。その度に思い浮かぶのは、父さんとコウキ、それに由香や秋山の笑顔。皆と笑ってバカ騒ぎした時のこと、スーパーに走って制服のままで私より二回りも上の主婦の人達に交じりながら買い物をした事、コウキと些細な事で喧嘩して父さんに笑われた事。そんなことばかり、浮かんでは消えていく。
前を見据えていた視線を、ふと落とす。それは、瞼が少しだけ熱くなったから。
(あぁ、本当に私って泣き虫だ。自分で決めたくせに……本当、情けない)
決心したものが瞼から溢れてきそうになり、それを出すまいと一度瞼を強く閉じた後、再び視線を上げようとした時――後頭部に数回何かが弾む感触が。