君がいるから
「ジン様、おはようございます」
「あぁ。朝からご苦労」
ジンに部屋から連れ出された私は、歩廊を一緒に歩いている所――なんだけれど。部屋から出てすぐに、朝から忙しそうに走り回るメイドさん達がジンの姿を目にすると足を止め、ジンへと一礼をし口々に朝の挨拶。一人一人にちゃんと挨拶を返し、先へと進んでいくジン。ジンが自分の前を通り過ぎても、しばらくの間そこにいる全員が頭を下げ続けている。そんなジンの背中を見つめていると、この人はこの中にいる誰よりも偉い人なんだと再認識させられる。
「おはようございます。あきな様」
「おっおっおはようございます!」
律儀に私にまで"様"をつけて丁寧に挨拶をしてくれる、お城の人達。私も同じように、少しぎこちないながらも挨拶を。
立ち止まっては皆に挨拶を返す度にジンと距離が開いてしまい、慌てて追いかけてはを、何回か繰り返す。
「おはようございます。ジン様」
あれ? この声は――。
ジンの背中に隠れた状態で、前方から聞き覚えのある声が届き、影から顔を出す。
「やっぱり、ジョアンさんっ」
「まぁ、あきな様、おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
にっこりと優しく微笑むジョアンさんの声音は穏やかで、安心感が生まれる。初対面の時を思い出すと、今こうしている事がとても不思議。
「はいっ。ここの所、ついつい寝坊してしまうくらい」
「ふふっそれはよかったです。お元気そうでなによりです」
「はい。その節は本当にあり――」
「朝っぱらから、馬鹿みたいな声出しちゃってさ。また変な服着ちゃってるし、あぁ~あダッサダサ」
ジンの背後から、ジョアンさんの前に駆け寄って、次に開きかけた言葉は甲高い声によって遮られた。その声の主を確認するまでもなく、肩が落ちる。ここ数日間は顔を合わせる機会はなく、私に対する物言いを耳にするのはあの日以来だ。
そっとジョアンの影に隠れてるのであろう後方を覗きこむと、腕を組みながら眉間に皺を寄せた釣り目を更に上げているピンク頭のシェリーちゃんがいた。やっぱり……と気づかれぬように、小さくため息をつく。
「んだよ! 人の顔ジロジロ見んな!!」
今にも掴みかかって来そうな勢いの物言いで、睨まれてしまった。