君がいるから


 息をするのも忘れてしまっていた為に、呼吸が荒く苦しい。肩を使って、落ち着きを取り戻そうと呼吸を幾度も繰り返す。
 目の前には、少しあっけにとられていたピンク頭のシェリーの両手の拳が震え出すのが目に入る。

「お前……本性出したな。アディルの前でも、それを出してみろー!!」

 鋭く尖った爪をむき出して奇声に似た声を彼女は発し、身を屈めた姿に見覚えがあり、咄嗟に身を構えた時。

 バッシーーーーンッ!!

「おやめ、シェリー!! まったく、どうしてそう、いつもいつもお前は」

 瞬間、ジョアンさんの手によって、シェリーの頭は思いっきり叩(はた)かれた。

「っいったーーい!! アディルに言いつけてやる!!」

 叩(はた)かれた頭を両手で押さえ、膝を折ったまま下方からジョアンさんを睨みつける。

「あぁ、別に構いやしないさ」

 でもジョアンさんはそれを無視して、呆れながら彼女の襟の後ろを掴み上げて立たせた。

「シェリー。お前は今日一日私に付いて仕事しなさい」

「はぁー!? 冗談! おばちゃんの傍にいたらアディルと遊べないっ」

「おばちゃんじゃない! ふ く ちょ う!! 何回言わせるんだい、まったく」

 ジョアンさんは傍にいた3人のメイドさんを手招きをし、言葉を交わすことなく3人はシェリーを囲う。そして、何処から取り出したのか手には縄があり、それを目にも留まらぬ速さでシェリーを縛り上げてしまった。

「はっ離せー! このやろー」

「私が行くまで見張ってなさい」

「承知しました」

 3人は私達に一礼をし、暴れ叫ぶシェリーを担ぎ足早に去っていく。呆然と彼女達が去っていくその方に目を放せずにいたら。

「シェリーが大変失礼な事を」

 ジョアンさんが申し訳なさそうに眉を下げた表情に、私は慌てて頭と手を左右に思いっきり振る。

「いえっ。あの……すみません、私も感情的になっちゃって」

 冷静さを取り戻したのと入れ違いに恥かしさが襲い、謝罪の言葉を口にした。

「おいっ」

 傍らから声を掛けられ振り向くと、ジンが痺れを切らしたかのようにため息をつき、先に進み始めてしまう。

「さっさと行くぞ」

「ごめん、ちょっと待って!! すみません、ジョアンさん」

 頭を下げ、駆け足でもう既に距離が開いてしまったジンの後を追った――。


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