君がいるから
* * *
連れて来られたのは龍の間。ジンに続いて足を踏み入ると、まず最初に目に飛び込んできたのは、真正面に見えるギルスのお爺さん。そして腕を組みながら座り、目を伏せている白髪の持ち主の姿。
「おい、どうした? こっちだ」
「あ、うん」
促され進んだ先で、私の前にある椅子を引き、座るよう漆黒の瞳が言う。
「……ありがとう」
お礼の言葉を口にしたら、ジンは目だけで頷く。ふぅ~っと息を漏らしたら、何やら視線を感じそっとその主がいるであろう方へと目を遣った時、全身が粟立つ。今しがた目を伏せていた筈のアッシュさんの――あの鋭く冷たい青い瞳が射ぬくように、こちらに向けられていたから。私は耐え切れず視線を下げ、席に着いた。
ただ見られているだけだ。ううん、もしかしたら只単に私の思い違いかもしれない。だけど、あの人の瞳はとても怖い――。
逸らしてもなお、まだ見られているような居心地が悪い感覚に、瞼をぎゅっと瞑り無理に消そうと試みる。
「具合でも悪くなったか」
ハッと目を開き、横私の左隣から声して顔を向けたら、ジンが腰を下ろしているところだった。気を使わせまいと、口端を少し上げて左右に頭を小さく振って答える。
「ううん、そんなことないよ。全然、大丈夫」
言って見せたら、ジンは"ならいいが"っと視線を逸らし、ギルスのお爺さんへと向く。
「ギルス。あきなを連れて来たんだ、もったいぶらず話せ」
口火を切ったジンは腕を組んで、お爺さんに対して威圧感を与えるような声音で言い放つ。けれど、お爺さんは表情を崩すことなく瞼を伏せた。
「アディルがまだ戻っておらん」
そう、ギルスのお爺さんが口にした直後、扉の開く音が耳届き、そこにいる全員が目を向けた。
「お揃いでしたか。遅くなり申し訳ありません」
「アディルさんっ」
姿を見せたのはカートを押しながら入ってきたアディルさんの名を、歓喜を含んだ声で発する。アディルさんが私の方を見て、いつもの微笑を浮かばせて私も同じように返す。
私とジンの元へ歩み寄って来てくれる姿を目で追う。カートの上に乗せられているティーカップの底がソーサーと擦れあい、カチャカチャ鳴る音が傍までやって来た。