君がいるから


 私達2人の背後の間に辿り着いたアディルさんは、慣れた手つきでポットに茶葉を入れお湯を注ぐ。そうして、数分蒸らした後、綺麗なカップに数回に分け注がれていく茶褐色のお茶。カップからは風に揺れるように湯気が立ち上り、甘い香りが漂ってくる。

「どうぞ。甘さはお好みでね」

 まず、王であるジンの前に置かれたカップ。そして次に隣にいる私の前へしなやかに置かれたソーサーには、角砂糖が2個添えられていた。

「ありがとうございます」

「熱いから火傷しないように気をつけて」

「はい」

 アディルさんの笑顔に先程までの緊張感は薄くなり、胸の奥がほんのり暖かくなる。ギルスのお爺さんにはカップは置かれず、アディルさんはアッシュさんの元へとカップを運んだものの、どうやら断られたらしく残念と笑っていた。

「こういうのも、たまにはいい」

「たまにはって。王、こんなに美味しいのを毎日何故、飲まないんですか」

「淹れ方が分からん。第一分かっていたとしても、お前のように毎日なんか無理だ」

「甘いのは疲れた時にはいいんですよ。何なら俺がお淹れしましょうか、毎日」

「無理だと言ったろ。お前のは甘すぎるから、たまにが丁度いい」

 ジンはそう言い切って、2口、3口と口に含む。私も冷めないうちに、数回息を吹きかけてカップに口を付ける。熱いお茶が喉を通り、体の奥からじんわりと広がっていく。その拍子に全身の力が抜けたように、肩が降りる。

「おいしい……」

「それはよかった。おかわりあるから、遠慮せずに言ってね」

「はい」

 自分の分も用意してカップを手に持ち、歩き行こうとしたアディルの事が、ふと私は気になって席を立った。

「あの、アディルさん?」

「ん? もうおかわりかな」

「いえ。そうじゃ……なくて」

「あきな?」

「――具合でも……悪いんですか?」

「えっどうして?」

 笑ってはいるけれど、微かにアディルさんの表情が崩れたような気がした。

「いえ、あの、無理して笑っている……ようなそんな気がして」

「あきな……」

「ただ、その……。私の勘違いだったら、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」

 確信のない言葉を繋げて言いはしたものの、最後には頭を下げていた。


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