君がいるから


(お、で……おで……こ)

 自分の額に掌を当てて、恐らく数秒間――今しがた起きた出来事を脳内で捲き戻す。

 


 心の中で声にならないものが溢れ出て、その場に座り込んで両手で顔を覆った。掌に伝わる自身の熱さ。ううん、掌だって汗ばむくらいの熱を持っているのかもしれない。

(どっどっどうして、おで、おで、おでこに!? アディルさんのくっく――!?)

 ドックンッ ドックンッ

 全部の脈があちこちで早さを増して、熱を帯びる全身。心臓が破裂寸前のように思えて。

「おい!!」

「はい! ごめんなさい!!」

 突然、耳元で聴こえた大声に体が大きく反応し、反射的に私も大きな声で返事をしていた。何故、謝ってしまったのかは定かではないけれど。
 振り返った先に、ジンが隣で同じようにしゃがんで眉を顰めながら顔を覗きこまれた。

「お前、何してんだ。ったく、こんなにも間近で何度も呼んでも反応は示さない、俺の声全然聞こえてなかっただろ」

「……え? あ、ははっ」

「とっとと座れ。遊びに連れてきたわけじゃないんだ」

 ジンの眉間の皺が濃くなって若干怒気を含んだ声音に、私は慌てて立ち上がり椅子へ座り直す。瞼を閉じ、熱が下がらないままの顔を数回軽く叩く。
 目を開くと、金の髪に自然と目がいってしまい、そのまま見入ってしまう。ギルスのお爺さんの方に向けていた赤い瞳が、私の視線に気づき頬を緩ませた。でも私の視線は、出合った瞳から下がっていき、形のいい唇へと移動してしまう。
 瞬間――先程の場面が思い返され、頭から煙が上がったかのように治まりかけた熱が再び帯び、恥かしさから体を竦めた。

「皆揃ったな。では、話の続きをしよう」

 ギルスのお爺さんの渋めの真剣みを含んだ声音に、周りの空気がひんやりと冷たいものへと変化した気がして、ハッと我に返りギルスのお爺さんへと視線を向けた。


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