君がいるから
「あきなよ」
低くゆっくりとした声質の主に自身の名を呼ばれ、途端に緊張が全身に周り開く唇が微かに震える。
「……はい」
「お主がこの世界にいる意味、分かるか」
(この世界に……いる意味?)
唐突に問いかけられた言葉に、私は頭を左右に振って答える。
「す……みません。分かりません」
ギルスのお爺さんの言っている事が理解できない。そんな質問、私に聞くこと自体間違ってる。今、理由を、この世界に来た意味を一番知りたいのは――私だ。
太腿に置いた掌でスカートを握り締める。ギルスのお爺さんは私の心情を知ってか知らずか、口端を微かに上げ瞼を一度閉じた。
「それもそう……だな」
瞼をうっすらと開き、椅子から静かに立ち上がって私達に背を向けた。
「ギルス。いい加減もったいぶらず、さっさと話したらどうだ」
業を煮やしたジンは腕を組み、真剣な眼差しをお爺さんの背へと向けている。お爺さんは、頭をゆっくりと上方へ傾け、長い白髪がさらりと揺れ動く。
「我々が住むこの世界ガディスは今、滅びの運命を辿っておる――」
天を見据えたままのお爺さんが語り始めたのは、予想もしてなかった言葉。ひんやり、何処からともなく冷気が吹きぬけていく。
「そして、この世界の運命の全てを握る者が、我々の前に現れた」
今、お爺さんは何を口にしようとしているんだろう――恐らく大事な話であるはずなのに、私はここにいていいのだろうか。そもそも、何故この場に呼ばれ連れて来られたのか。
トクン トクン
やけに自分の心音が大きく耳に響いてくるのは、静寂が漂い乾いた冷気のせいだ。
「その者の名は――」
杖がカツンと床に当たり、微かに動くだけで起つ布が擦れる音。見つめる先では、まるで時が緩やかに流れているかのように、背を向けていた人物が振り返る。
(――待って)
次に続く言葉を聞くのが、とても怖いという感情が沸き起こってくるのは、何故。
振り返った先には誰がいて、お爺さんの瞳には一体誰の姿を映し見ている。薄く少し乾いた唇が開かれる。
「あきな――そなただ」