君がいるから
トクン トクン ドクンッ
――この世界の運命の全てを握る者――
――あきな、そなただ――
(頭の中で何度も何度も谺(こだま)して聞こえてくるのは一体誰の声?)
細められた目元の奥にある灰色の瞳に、真っ直ぐ捕らわれてしまう。呆然とする私を置いて、ギルスのお爺さんは先へ言葉を紡いでゆく。
「その娘が当初、この世界の人間ではなく異世界から来たという話を我々ギルスは信じ難く、奴等の行いを見ていれば、あきなもまたシュヴァルツの仲間だと考えてやまなかったのだ」
アディルさんが教えてくれた、ジンの命を狙うのは男性だけじゃない――女性やまだ幼い子までいたという話を頭の片隅で思い出す。
細く皺が目立つお爺さんの掌を上へ向けた途端に丸い光が帯び、一冊の古い本が現れた。
「だが、我々はある昔の予言書に"あること"が記されていることを思い出したのだ」
指先を使わないのにも関わらず、紙が1枚また1枚と次々に頁が捲られていく。
「この予言書には、こう記されておる」
ある頁にたどり着き、お爺さんの指先が紙を撫で、そこに書いてあるのだろう文章を読み始める。
――闇の力が蘇りし全てのものが闇にのまれ滅び行く時、龍の血を受け継がれし者、異世界の地より舞い降りる。紅力の源・紅の光が闇の力を封じ込め、この世界に永遠の平和を齎すであろう――
「闇の力というのは、シュヴァルツを指していると考えられる」
掌にあった本は光の粒となりその存在が消えた。その時、ジンが盗み見るように、ほんの一瞬――私に視線を向けたかと思うと、元に戻しギルスのお爺さんへと問い掛けた。
「異世界の地から舞い降りるというのは、今の段階ではあきなと考えられる。だが、何故、あきなを龍の血を受け継ぐ者だと言う? お前達ギルスは異世界の人間ということを、そう簡単には信じられんのだろう?」
ジンの冷静な問いかけに、息を小さく吐くお爺さんは微かに眉間に皺を作る。この時――太股の上でスカートを握っていた指先が白くなる程に、力を込め握った。