君がいるから
洗い立ての服が入ったカゴを抱えてベランダに出ると、生暖かい風が頬を掠めてく。空を見上げたら、一面には雲1つない青が広がっていた。天気がいいと早く乾く――嬉しく思いながら干し終えて、家事が一段落した所でお風呂に入り汗を流して学校へ行く準備を始める。軽くメイクをして、アイロンがかかったシャツに袖を通し、チェックのミニスカートを着衣。濃い青のネクタイを少し緩めて、黒のハイソックスを履いて紺色のブレザーを羽織ったら準備完了。自分の部屋に戻り、コウキへのメモを残す。
コウキへ
学校に行ってくる。
お腹空いてたら冷蔵庫にお惣菜が入ってるよ。
姉ちゃんより
メモを書き終えペンを元の場所へ戻した時、ふと視界に入った机の上に置いてあるアクセサリーBOX。手に取りBOXを開けると、ブレスレットやネックレス、それから1つの小さなグレーの箱が顔を出す。
箱の中には、亡くなった母さんの形見であるシルバーで出来た丸い鮮やかな赤の石が埋め込まれている指輪。普段持ち歩くことはないのに、不思議とこれを身に付けなればいけない気がして。
「色がくすんじゃってる。よしっ磨いていこう」
シルバーリング用の磨き布を手に取り軽く磨きあげたら、少しくすんでいた指輪は輝きを増す。指輪を左の中指に通し、鞄を持ってメモをダイニングに置いて、戸締りの確認を入念にしてから家を出てきた。
それからいつもの通学路を通り、学校に辿り着いて職員室へ直行。着くなり、担任には居眠りを注意されたけれど、話はすぐ変わって本題の進路の話へ。進路の話に1時間弱かかり、結局私1人では結論は出ず、父さんとも話し合えということ、そのあと、少しだけ雑談をして終えた。でも話の間中、朝ごはんも食べていなかったから、お昼何にしようかとのん気に考えていた事はきっと先生には知られていない筈。
「……本当にお腹すいた」
下駄箱に着いて、深いため息が漏れた。
「あれ、あきな。お前また何やってんだ、そんなとこで」
下方を見ていた視線を、声がした方へ向ける。
「また秋山だぁ」
「んだよ、それ。俺じゃ悪いのかよ」
「ごめん、ごめん。そうじゃなくて」
「具合でも悪いのか? 顔俯かせて溜息なんかついてよ。それになんか元気なくないか?」
秋山が私に近づき、顔を覗き込むようにして心配している。
「ううん。お腹がすいちゃって……心配してくれたのに、理由がこんなんでごめん。へへっ」
体勢をまっすぐに伸ばしお腹を擦った。