君がいるから
体を屈めていた秋山も、まっすぐに立ち直る。
「んだよっそんなことか……。心配して損した」
「へへっごめんね。ところで秋山、身長また伸びた?」
190センチ以上ある秋山と155センチしかない私。差は歴然なのに比べるのはどうかと思ったけれど、秋山と自分の背を比べようと腕を伸ばす。
「よく分かったな。最近測ったら1.2センチ伸びてたぜ」
「ホント!? すごい、まだ伸びるんだね、君は」
「このままだったら2メーターも夢じゃねーな」
くっきり二重で少し細めの目元を、更に細めて無邪気に笑う秋山。ドアから入ってくる風で揺れるダークブラウンのナチュラルショートヘア。
ふと視線を下げると、秋山の右手に持っているものに目がいく――バスケボール。またすぐに秋山へと視線を向ける。
「練習、大変?」
「ああ、もうすぐ練習試合でさ。みんな頑張ってるぜ! 毎日クタクタで帰ってすることと言ったら、風呂入って飯食って即行寝るぐらいだ」
「あの監督の練習きつそうだもんね。でも、楽しそうな顔してるね」
「そうか?」
「うん! 秋山はキツイって言いながらも口元が笑ってるもん。見てるこっちまで楽しくなっちゃう」
「あっあのさ」
秋山が発しようとした言葉は、私の携帯の着信音で遮られてしまった。
「ごめん、電話だ」
「おっ……おおっ……早く出ろよ。切れちまうぞ」
「うん」
何処か動揺している様子の秋山に首を傾げつつ、ポケットから携帯を取り出してディスプレイを見る。そこに映し出されていたのは、我が弟の名。
「もしもし」
『もしもし姉ちゃん? まだ学校?』
「うん」
『俺さ、一旦帰ってきたけど、またすぐ出るわ』
「また? まぁ……いいけど」
『しょうがねーだろ。付き合いがあんだよ』
「付き合いって……あんた」
『昼はちゃんと食ったし、片付けもしたから』
「分かった。今日は帰ってくるの?」
『おう、ちゃんと帰る。夕飯、一緒に食うからよろしく』
「はいはい。気をつけて、いってらっしゃい」
『じゃあな』
(メモに残してくれてもよかったのに、こういう所は律儀っていうか、なんというか)
そう思いつつも自然と頬が緩み、携帯を再びブレザーのポケットへしまい込んだ。