君がいるから
「弟?」
「うん。また遊びに行くみたい」
「羨ましい。あー俺も行きてー」
「練習試合が終わったら行こう! カラオケとか久々にどう? 3人で」
「おっいいねぇー!!」
(また笑った、本当に無邪気な笑顔。これは……モテる理由が少し分かるかも)
最近クラスの女子が、密かに秋山のことを話題にしている所をたまたま聞いてしまったことがある。かっこいいとか、身長も高くて理想の相手だとか騒いでた。こんなことを考えながら、無意識のうちに凝視していたらしく、秋山がふいっと顔を俯かせる。
「んだよ、そんな見んな」
「ごめん、なんでもない」
「と……ところで来るんだよな、試合」
「うん……行く。 由香と一緒に一生懸命応援するからね」
2人で笑い合っていたら、秋山の背後に1人の男子生徒が現れた。
「秋山、監督が呼んでるぞー。早く来いよ!」
秋山を探していたのか、同じバスケ部員が秋山を手招きをしてる。
「おう分かった。じゃあ、俺行くわ」
「うん! 練習頑張って」
拳を顔辺りで作って見せたら、秋山も同じく拳を作ってコツンと合わせた。そこで、ふと思い出す。
「あっ!」
「?」
「さっき何を言いかけてたの?」
私が問いかけると、照れくさそうに頬を人差し指で数回撫でる秋山。
「大事な話?」
「……大事っつーかなんつーか、その」
「ん?」
「……れっ練習試合ん時にさ、弁当作って来てくれないかなっと思って」
2人の間にほんの少しの沈黙が流れる。
「何だそんなことか、いいよ!」
「マジ? 試合後ってマジ腹減るんだよな」
「それ言いかけたんだ」
「いやっそれ……だけ……なくて」
秋山の言葉が最後まで聞こえなくて、掌を耳元に持っていき首を傾げる。
「聞こえない。最後らへん、何て言ったの?」
「きっ気をつけて帰れよ」
そう言うと、秋山は私に背を向けて、さっきの男子生徒と一緒にその場から走り去って行く。秋山がいなくなった途端に――キュルルル~ル。
「うわっ……秋山がいる時じゃなくてよかった」
友達とはいえ男子の前では、これはさすがに恥ずかしすぎる。誰も聞いていないと思いはしたけれど、顔が熱くなり両手でお腹を押さえた。
「何、食べてこっかな」
あれもこれもと次々に食べ物が頭に浮かばせながら学校を後にした――。