君がいるから
「もしも、部屋や城外、庭に出るときには誰か護衛を付け警戒しろ。それを言いに来た」
「…………」
頭に乗っけられた重みが数回弾む。
「あきな。俺たちは――」
途中で言葉が切られ不思議に思ってふいに顔を上げてみると、眉間に皺を寄せて窓外を睨みつけているジンがいた。
「兄さん」
「あぁ、来るな」
「そのようだね」
2人の顔を交互に視線を移すと、レイもまたジンと同じく険しい顔つきへと変化していた。立ち上がったレイも窓外に目を向けたのを追うように、私も窓へと視線を移す。頭の上に感じていた重みがいつの間にかなくなっていたのに気づくと同時に、ジンが一歩前へ出て右の掌を広げた。
「俺の背後に回れ」
「え? 何?」
状況があまり把握出来なくて、ジンの言葉に呆然としていたら。
「早くしろ!!」
ジンの緊迫した様子に慌てて立ち上がってジンの背に隠れるものの、そこから顔を出しそっとジンの顔を覗く。真っ直ぐ窓外を睨みつけるジン。
(一体何が起ころうとしているの?)
一気に張り詰めた空間に、私は戸惑うことしか出来ない―。
私もその視線を辿り見た先に、月明かりに照らされバルコニーの手すりに乗った影が浮かび上がっていた。レイも身構えながら、一歩一歩窓から距離を取っていく。目を凝らしてみるも、月明かりが強いせいもあって、逆光でよくその姿を確認できない。
手すりから飛び降りた影がカツッと音を鳴らし、こっちへ近づいてくる。徐々に、部屋の明りによってその姿が現れていく。
両手を握り合わせ息を呑んだ時――視界の端に紅い光が漏れ見えてその方へ向くと、ジンの右手にあの黒い剣が握られていた。その事に驚く間もなく――。
「よう」
ハッとその声に反応し、目の前に現れた人物に体が強張る。
「お嬢さん」
ニヤリと不敵に上がる口端、その左頬には一筋の傷痕、そして赤い髪。剣を構え、ジンの背中が私を守るように隠す。
「まぁた、邪魔がいるのかよ」
腰に手を置き、大袈裟にため息をつく赤髪の男にジンは鋭い眼光を向け言い放つ。
「サーチェ一族の頭だな」
「あぁ。ギルガータ=サーチェとは俺様のことだ。覚えておきなっ!!」
彼はそう言う放つなり、目も留まらぬ速さでジン目掛けて突進してきた。