君がいるから


「ギル急げ~! これ以上、邪魔が入るとめんどくせーことになんぞ~」

「ちっ! わぁーってんだよ!!」

 背をこちらに向けめんどくさそうに、それでいてイライラしてる様子の青年は頭を乱暴に掻く。

「アディルさん!!」

「2人とも無事ですか!? お怪我は――レイ様!?」

 この場にいるはずの無いレイの姿を見るや驚きの声を上げ、アディルさんは私達の元に駆け寄ってくる。その姿に、靴の底を地面に着けおもむろに立ち上がる時、傍らにいる人物の肩にあった温かさと重みが滑り落ちる感覚があった。

「ギル!!」

「わぁーってるつってんだよ!!」

 バーンッ!!

 青年の大声と共に何かが弾けた音が聞こえた後、一瞬にして辺りが煙幕に包まれてしまった。

「ケホッ……何も見えない」

 視界が真っ白に染められ、その衝撃で口から吸い込んだ煙に咳き込みながら、よろめく足で彷徨い歩く。

「あきな!! 何処にいる、返事をしろ!!」

「王!! あきな!!」

 煙幕に覆われた空間に、私の名を呼ぶ2人の声が四方八方から聞こえてくる。どの方角からなのか、煙幕が邪魔をしてまったく分からない。

「ジン!! アディルさん!! 私はここ――」

 途中で言葉が途切れたのは、首元の冷たい感触に唾を飲み込んだからだ――。






   * * *


「あきなー何処だ!? 返事をしろ!」

「王!!」

「アディル! あきなは何処だ!?」

 ジンの目の前に、煙の中から姿を現したアディルに問う。

「それがこの煙に邪魔されて、まったく姿が……」

「くそっ。奴等の狙いは確実にあきなだ。奴より早く見つけ出さなければっ」

 焦りを含んで舌を打ち、剣のグリップに力を込め握り、白に染まる視界を見回す。

「いやーッ!!」

 煙の奥から聞こえた悲鳴に、2人は目を見開き身体が咄嗟に動く。

「やだってば! 下ろしてっやだ!!」

「あきな!!」

 アディルが叫んだ後、突然吹きだした強風で辺りを包み込んでいた煙が竜巻のように巻き上がり、一瞬にして消え去る。その突風に顔を歪め固く瞼を閉じた途端、大きな轟響く音が風に交じて流れ込んでくる。

「じゃあなっ! 国王さんよー!!」

 前方から勝ち誇ったような声に、強風の中きつく閉じた瞼をゆっくりと開けきった2人の瞳に映ったのは。宙に浮かぶ一隻の木造船――。


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