君がいるから
* * *
手を引かれ煙の中から出ると、前回と同じようにまるで荷物を担ぐように肩に乗せられた。今度は重力に反して顔を上げれば、青年の顔が垣間見れることが出来る状態。その青年の手を辿る先で太い縄をしっかり掴んでいるのが分かった。
「下ろしてって! 頭に血が上るっ」
「あぁーうっせーな!! 少し黙ってろ! このまま落とすぞ」
「連れていかれるくらいなら、このまま落としてくれた方が本望よ!」
青年に言われ重力のまま頭を下ろし見たら、既に今までいた部屋の床ではなく、緑と所々に様々な小さな色の絨毯と何人もの騎士さんたちの姿が。その視線の先の光景に、眉を顰め足が竦んでしまう声が漏れる。ヒューッという風が通り過ぎていく高い音と、轟音が煩く耳に響く音に交じって聞きなれた声が下方から届く。
「あきなー!!」
青年の体に両手を付き体をほんの少し起き上がらせるようにして頭を上げた先には、バルコニーに駆け寄ってきたジンとアディルさんの姿が。
「アディルさん!! ジン!!」
届きもしない腕を目一杯伸ばす。今、瞳に映る長い金の髪が風で揺れ動く人物も私と同じように腕を伸ばされる。
「あきなー!!」
私の名を呼ぶ声は、風に混じりすぐにかき消されてしまう。このまま連れ去られるくらいなら落ちてしまってもいいとさえ思え、足をバタつかせて必死で抜け出ようとしても、腰を力強い腕によって筋肉質な肩に押さえ込まれてしまう。
「おっさん、とっとと上げろ!! この女暴れまくって、うざくてしょうがねー!!」
「わぁってるよ~。今、上げるからちょいと待ってろ~」
締まりの無い声と共にがくんっと少しの衝撃があった後、徐々に自分の目線が上がってアディルさん達の姿が更に遠くなっていく。
「やだやだっ離してっ! お願い、下ろして!!」
そう青年に視線を向け懇願をするも、私の言葉を無視し続ける。
青年の視線は、まっすぐある一点を見つめながら口を開いた。
「シャルネイの王様ー!! もらってくぜー!!」
楽しくてしょうがない、勝ち誇ったようにそう言い放って、高笑う青年の姿に眉間に皺を寄せ睨み付けた。