君がいるから


 私は木造の船の中に収められていく――。見上げた先には、数人の男たちが妖しい笑みを浮かべ立ち待っている。
 上を見ていた視線を今だ見えている生い茂る緑の絨毯を見下ろす。でも次第に景色も、助けを求めた人物の姿形も、徐々に遮られていってしまう。その光景に瞼が熱を帯び始め、完全に見えなくなる寸前。

「アディ――」

 もう一度、口にしようとした名は、錆びた鉄同士が擦れ合う音で遮られ、そして――。

 ガッシャン!!

「あきなーー!!」






   * * *






 暗い暗い明かりが一つもない闇がどこまでも広がる――。体が思わず身震いしてしまうどんよりとした空気が重く感じる空間。長く続く先が見えない通路の奥深くには――紅い月が妖しく輝き照らす空間が開ける。その月を一望出来てしまうほどの窓硝子に寄りかかりながら地べたに座り込む男が1人。
 男は片膝を立て腕を伸ばし乗せ、もう片方の腕は力なく地面に落としている。視線の先には、男に向かい膝を付いて頭を下げる3つの影。

「ハウィー」

 男の重低音の声音と共に、名を呼ばれた者がゆっくりと腰を上げる。面もまた徐々に上がっていく中、月の光が次第にそれを照らし映し出す。

「そろそろ遊びに出てもいいんだよね~?」

 口端を妖しく上げ、不気味な笑みが浮かぶ。

「今回は思う存分暴れてよい。だが忘れるな――我らの目的を」

「はいはい、分かってるよ~。 さぁて、行ってくるかなぁと……」

 目前の人物に背を向け、バサッと背に羽織り纏う外衣を広げ揺らし靴音を鳴らす。顎を引き上目で見る男は、不気味な笑みを浮べたままで両手が小刻みに震え始めていく――。

「ハハハ。うずうずして、しょうがないやぁ……楽しみだよ。興奮しすぎてどうにかなってしまいそうだ」

 やっとだ。この時を待っていたんだ――さぁ、一緒に遊ぼう。赤い雨を、たくさん降らそうじゃないか。



   Ⅶ. 碧き瞳  完



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