君がいるから
Ⅷ.黒の予言
* * *
カツカツと床に擦れ当たる男の靴音。しばらく肩に担がれたまま進み行き、そして男はある場所で立ち止まり一つの扉が開いた。
「きゃっ!!」
扉が開け放たれたと同時に、赤髪の男に肩から乱暴に下に投げ落とされ、床に思いっきり尻餅をつき顔を強く歪める。
「い――ったた」
顔を歪めながらも打ち付けた箇所を掌で擦って、ゆっくりと立ち上がる。そんな私に、目の前の男が口を開く。
「ったく、うるせー女だな、お前。ちったーここで大人しくしてろっ」
男は腰に手を当てながら、無表情で私に言って扉の外へと出て行こうとする。
「待って!! 私を一体どうするつもり!? 私を誘拐したって何のメリットもないと思います!!」
「さぁな。どうすると思う? 大人しくしてれば悪いようにはしないぜ? まっそのうち、お前の価値も分かる」
私の全身をゆっくりと下から上へなめるように視線を移動させる。男が口元をにやりと上げたのを目にして、ゾクッと身が震え身を構えた。
「あぁしかし、色気ねーな。胸も大した大きさでもねーしよ」
吐かれた言葉の後、男の視線が胸元に向けられたことに気づき、慌てて両手で多い隠す。
「おっ大きなお世話ですっ!」
「今更隠したっておっせーよ。これ以上騒ぐんなら手足縛り上げるかんな。それが嫌なら大人しくしていやがれ」
「――っ」
つり上がった目元で睨まれ、言葉が詰まりグッと拳に力を込めた。男は再び私に背を向け、この場から去ろうとした時。
「あ~いたいた!! 頭っやっと見つけた! ちょっといいですかい!?」
「あ? んだよ」
1人の男が赤髪の男をその場に呼び止め、慌てた様子で身振り手振りを交えながら、何やら立ち話を始めてしまった。ボソボソと話す彼らの会話は聞こえづらさはあったものの、時折。
「ちっと、とちった奴が……爆薬のせいでかなり」
所々ではあるけれど、耳に入ってくる会話の内容。でも、今の私は彼らの会話ではなく、別の処へ意識を集中させている。見る先は赤髪の男の背後の一点。なぜなら――扉が開け放たれ、人一人が通れるほどの空いている間。グッと拳を作り、そして一つ息を呑む。
(行くなら今しかない。私のことなんて、目に入ってない。大丈夫――まだ足には自信はある)
緊張からか汗ばんだ掌を握りしめ――そして、床を蹴る。