君がいるから


   * * *


 結局、いつも行くバーガーショップに寄って、デザートまで調子に乗って食べてしまい苦しすぎてお腹を摩る。食べすぎで気持ち悪さもありながら、とぼとぼと家を目指して歩いている途中。昨日通った広場の道に出て、何となくその広場の中へと足を向けていた。

「今日、休みなのに誰もいないんだ」

 いつも賑やかな広場は珍しく人っ子一人いない。緑に囲まれた道――春は満開の桜が咲き誇るこの道をゆっくり歩く。通り抜けると、昨日中学生ぐらいの男の子達がいた場所へと出た。

「気持ちいい」

 目を閉じて心地よい風が全体に当たり、髪をなびかせていく。誰もいない広場には木々たちの葉の揺れる音と、風の時折強く吹く音がするだけ。見上げたら、朝と一緒で空一面に真っ青な色が広がっていた。
 空を見たと同時に洗濯物が頭に浮かび、急いで戻ろうと出口へと踵を返そうとした時だった――。

 ――っく……く――

「え?」

 一瞬耳に届いた微かな声に立ち止まる。周りを見渡すけど何もなく、空耳だと思いまた踏み出す。

 ――っく……っく――

「誰かいるの?」

 何回も360度見回してみるも、私以外の人がいる気配がない。

 ――ひっく……ひっく……っうぅ――

 さっきよりも、はっきりと聞こえた声は、空耳なんかじゃない。

 ――ひっくひっく……うぅ……っく――

 徐々に大きく聞こえてくるというよりも、近づいてくる――その感覚に、だんだんと気味が悪くなってきて、寒くもないのにぶるり――背中が大きく震えた。

(早くここから出よう。昨日買い忘れてたのもあるし、帰ったらスーパー行かなくちゃ)

 家まで走ろう――そう決め、走り出した瞬間――。

『イクナ!!』

 その言葉と同時に辺りが真っ暗な空間へと一瞬にして変わった――。腕を誰かに突然掴まれたその感覚に、不思議と恐怖心は生まれなかった。

(私……どうして…?)

 その気持ちを確認したい、温もりの正体を知りたい、何故だかそう思っていた。振り向こうとした刹那――私はそのまま意識を手放してしまった。


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