君がいるから
* * *
「……ん」
瞼を小さく震わせ、ゆっくり開かれていく視界。鼻の先から土の香り、頬を掠めていくそよ風がくすぐったく感じる。そして、青々とした草がぼやける視界に入ってきて、不思議に思いながらもダルさが残る体を起こす。まだ視界がぼやけている視点を合わせようと擦り、もう一度瞼を開く。だんだんと視界が鮮明に映し出されていき、目に飛び込んできた光景は――。
「ん……? ……ここ」
そこには青々とした草がただ一面に生い茂り、周りには先ほどまでいた場所とはまったく違う光景であることに気づく――。
「え! えー!! 広場にこんなに草なんて生えてたっけー!?」
頭を両手で押さえ、座ったまま叫び声を上げパニック状態になる。
「ちょっ落ち着け、私……。広場にいて、洗濯物を――誰かの泣く声がして……それで帰ってスーパーに行かなくちゃいけないって思って。それで、それで」
胸に手を当てて心臓がいつもより早く動くのを感じて、とにかく落ち着けと自分を抑えるのに努めた。まず、立ち上がろうと足を動かすと何かに当たる。
「……鞄」
足元に通学鞄が転がっていて、鞄を拾い上げ抱きしめ、ふと空を仰ぐ。さっきまで見ていた空と同じ色が広がっている。
「まだ、そんなに時間経ってないのかな……?」
でも奥の方の青に少しかかる紅にふと気づく。空を見上げたまま、体をクルッと後ろに向けて反対側を見遣る――すると、そこには。オレンジ色がやや強い黄色を混ぜたような色に赤も混ざったような。
「つ……き……」
クレーターまで肉眼ではっきりと分かるくらいに、とてつもない大きさの満月が目の前に。目を奪われてしまう――紅の月。空一面は明るいというのに、月の輝きがこんなにもはっきりと見える光景がとても不思議に思えて。
「そこで何をしている」
カシャンッ
低く警戒心のある声がして、私の喉元に妙な違和感があり、視線を下げると光に当てられ眩しく感じる鋭いもの。こくり――生唾を飲む喉が震えた。