君がいるから
私の額には嫌な汗が浮かび、一筋に首元まで流れてくる。
「何をしていると聞いているんだ、女」
今度はさっきよりも、もっと低く冷たい声。唇をギュっと閉め、その声の主を見る為ゆっくりと振り向く――。鉄のようなものを身につけている腰あたりを見ているんだと思い、そっと仰ぎ見た先には――真っ青な瞳と出合う。青の瞳が月の光に当たって一層輝き見える。男の人らしい短い髪。思わず見入ってしまうほどの真白に目を奪われる。
(ううん、白じゃない――銀……? すごく綺麗な色)
「まさか口が利けないわけではあるまい。先程まで1人でブツブツと喋っていただろう? さぁ言え、女。貴様は何者だ」
「…………」
「もう一度聞く。ここで何をしていた。お前は何者だ。これが最後のチャンスだ、答えなければ――」
何も答えられずにいると、男の人は言い放って鋭いモノをより近づけて、首に微かに当たる鋭く冷たい感触――。
――私は気づけば草だけが生い茂っている場所にいて、初めて目にするモノを首にあてがわれている。
(これって……夢?)
夢であってほしいと何度も心中で願い続ける。けれど、これは全て現実――私は来てしまったんだ。地球という私が生まれ育った青い星ではなく、ガディスという紅い月が妖しく浮かぶ世界へと。
Ⅰ.日常 完