君がいるから
Ⅱ.異世界の少女
父さん、コウキ、由香、秋山、母さん……。私は見知らぬ世界へ来てしまいました。
「見られぬ服を着ているな。女、奴等と繋がっている者か!?」
月の光に照らされた顔を見た瞬間、時間が止まってしまったかのような感覚に襲われる。
「……あ」
言葉を発したくても声が、唇が震えてなかなか言葉になって出てきてくれない。この人が私を見る表情――瞳は氷のように冷たい。恐怖、この思いが一気に全身を覆いつくす。
このまま答えなければ、私はきっとこの人に。
こ ろ さ れ る。
頭では分かっているのに、行動となって現れてはくれない。目の前の状況に耐え切れず、ずっと逸らさずにいた視界を閉ざした。
「長(おさ)」
その時、目の前にいる男の人とは正反対な柔らかな声音が耳に届く。
「老様方がお呼びです。急ぎ城へ戻られるようとのこと」
「――わかった」
カシャンッ
さっきまで喉元にあった金属の気配が無くなり、ゆっくりと目を開く。視線をゆっくり自分の首元に向け、男は私に向けていたモノを下ろし鞘に戻していたのを確認すると、息が荒く吐き出される。
男の背後で、片膝を着いて男を見上げている人と、ふと目が合う。今度は温かみを連想させる色――紅の瞳。
「長、その方は?」
紅の瞳の持ち主が青の瞳の持ち主へと言葉を掛け、また私へとあの青の瞳の冷たい眼差しが送られ、再び体が硬直。
「アディル。この女を連れて城へ戻る」
「承知しました」
そう言い放つと、青の瞳の人はさっさと1人で歩き出す。もう1人の男の人が草を踏みしめる音を鳴らしながら、私の元へと寄って腕に優しく触れてきた。
「立てますか? ゆっくりでいいので、一緒についてきて下さい」
まるで、壊れ物を扱うかのような手つきと柔らかな声音に少し安堵して、返事の代わりに頷いた。
それでも、全ての不安を拭いきれず、ギュッと鞄を抱きしめる腕に更に力が込もる。背中に添えられた手にそっと押され、男の人達と緑が生い茂る道を歩き出し『城』と呼ばれた場所へ向かうこととなった。