君がいるから
ポツポツ ポツ
頬に冷たいモノが当たっては、肌を滑って落ちていく感触――そっと瞼を上げ、頬を指先で触れる。
「水?」
その正体を確認して後、再び頭上から滴が無数に降り注いでくる。
「雨」
頭上を仰ぎ見ると、パラパラと灰の雲から落ちてきていた雨の雫が次第に勢いを増し降り注ぐ。髪先から雫が滴り落ちてくるほどに、私はその雨に静かに打たれていた。視線を元の位置に戻すと、目の前には数日間過ごした――。
「シャルネイのお城」
――あきな――
頭に直接語りかえられたかのような声に、目を見開き体ごと振り返る。
「…………っ!」
振り返った先の光景に声を失い、両手で覆い隠した唇が震える。
視界の先にある、それは。
倒壊した家屋――瓦礫の下から覗く赤に染まった腕。赤に染まり息絶えている無数の亡骸。無数の濃灰の煙が空へと上っていく。
惨く残酷で目にしたくない光景に、足が震え逃げるどころか動くことさえ出来ずにいる。
「こ、これ……って。どうして……どうして、こんな。酷い……」
最早、私の頭の中は同じ言葉しか出ては来ず、目を覆ってしまい衝動に駆られた時。息絶えた人達が広がる向こう側に立つ1つの影を目にする――。見覚えのある――白灰の髪。
「……アッシュさん?」
剣を持ち、ある一点を見つめ動かない。アッシュさんの視線を辿って行くと――その先には彼の目前に黒い外衣を身に纏った人の姿があった。外衣に付いたフードを目深に被った人物の表情を窺い見ることは出来ない。再びアッシュさんへ視線を戻すと、彼は目を見開き、驚きの表情を浮かべているようだった。
アッシュさんの背後で、空へと上っていく一際大きな濃灰の煙の中にゆらり――何かが動くのに気づく。
「なに……今の」
身を乗り出して、一歩足を踏み出した時――突然、煙の中から飛び出てきたのは――銀髪。瞬間、垣間見れた不気味に上がる口端。
ザシュッ
生々しく耳に届く皮膚を切り裂く音。噴出すのは――赤い血飛沫。