君がいるから
* * *
夜が更け――空が白み始めようとしている時分のある一室。
「てめーな!! 俺様たちの眠りを妨げんじゃねーよ!!」
がしがし頭を掻き、苛つく声音で言い放つ赤髪のギル。ギルの視線の先には――白髪の髪と金の瞳を持つウィリカと、顔を伏せ体を震わせているあきなの姿がある。ウィリカはその震える背中をやんわりと撫で寄り添う。
「何とか言いやがれ!!」
「ギル」
ウィリカが落ち着いた声音で名を呼ぶと、ギルはイラつく気持ちを抑えるかのようにガシガシと後頭部を再び掻いた後、はぁ――大きなため息をつく。
「一体どうしたってんだ。こんな真夜中に甲高い女の叫び声なんざ、こっちは目覚まし代わりに聞きたくもねーんだっつーの」
大きく口を広げて欠伸をし、背筋を思いっきり伸ばすギル。そのギルの背後で、男達が眠気眼で瞼を擦ったり欠伸をしながらも所狭しと限られた扉の間から数人が群がり、何事かと部屋の中を覗いている。
「大丈夫。そんなに怖がらなくても俺達がいるから。今、何か温かいものでも持ってこようか」
ウィリカは未だ自分の横で、何かに脅え震えるあきなへそっと声を掛けたものの、それに対しての応えはなく、ただ自身を抱きしめ続けるだけ。あきなから扉の方へと視線を移し、群がる1人の男に温めたミルクを――そう指示を出し、ウィリカは再びあきなに目を向けた。
「怖い夢でも見た? 俺が余計な事を言ったからかな」
もう一度言葉を掛けて反応を待っていると――そのうち、あきなの体が微かに揺れ動いた。
「ゆ、め……」
「そう、怖い夢。それは夢だから、気にしなくて――」
「ゆ、め……じゃないって……言ってた」
やっと口を開きか細く呟かれた声に、ウィリカは耳を近づけ澄ます。
「…………」
「雨、に濡れた……感触も。ここに……触れたものも、全部、今も」
途切れ途切れに言葉を続けるあきなは、頬を触れた指先の震えが大きくなる。ウィリカはそれを抑えようとするように、肩に添えた手に力を込めた途端――突然顔を上げるあきな。そのあきなの表情は、目を見開き何か恐ろしいものでも見たかのように青ざめている。
「どうした?」
「早く、戻らないと……」
「戻る……って?」
途端、ウィリカの手を振り払い、ベットから飛び出し扉に向かって駆け出したあきな。でもそれは、すぐにある人物の手によって阻まれた。