君がいるから
「大丈夫?」
にこり、柔らかく微笑む白髪。
「ウィリカ……さん」
「いいよ、ウィリカで。さん付けなんて、何かむず痒い」
ポンポンッと肩を数回叩かれ、ウィリカは私の傍らを通りすぎて行く。ウィリカの姿を目で追っていくと、そこには予想もしない表情を浮かべた人物が。
「顔、真っ赤」
「は!? るっっるせーんだ……いっいちい、ち! にやにやして人の事見てんじゃねーぞ」
「いや。いちいちって、一回しか言ってないんだけど」
若干、しどろもどろの言い方と落ち着きの無いギルガータの様子に、私は首を傾げる。食堂では、あんなに冷たい瞳で首を絞めたりしてきた人物とは思えない。
「食堂であの子の唇に迫ってたくせに、今更恥ずかしがること?」
「は!? ってんめー……覗き見なんて悪趣味だぞ!!」
(みっ見られてた!?)
ギルの顔がぐいっとウィリカの顔に近寄り、目尻を吊り上げて睨みつけた。ウィリカは、それを気にせずにっこり――微笑んでいるだけ。
「あきなを連れてきたのは、ただ単に気まぐれってわけじゃなかったわけだ。ふ~ん、そういうことか」
「意味わかんねーこと言って、1人で納得してんなっ」
「ムキになってる所が、また一番怪しいね」
「俺様の何処が怪しいってんだ!? それにな、ウィリカてめーな――」
「お話の途中で、すいませんが!」
「んだよ!!」
2人の間に恐る恐る入り込んでみたものの、鋭い眼光が私に向けられ思わず後ずさる。
「あ……いや」
私の反応を目にすると、少しバツが悪そうな表情へすぐに変わるギルガータ。
「ん? どうしたの、あきな」
ウィリカの優しい声音に安堵し、色々この人達には思うことはあるけれど――今は思いっきり頭を下げる。
「ありがとうございます」
「は?」
顔を上げたら、私の突然の行動に理解出来ないような声が上がった。
「シャルネイに戻ってくれるんですよね?」
嬉しさのあまり頬を緩ませていたら、ギルガータの目つきが変わる。
「何か、勘違いしてねーか。お前」
「勘違いって。さっきシャルネイに戻るって」
「言ったこと、忘れんなよ」
靴音が鳴ったかと思えば、私の目前にギルが腕を組み立つ。
「女に二言はねぇーんだろ?」
目を細め、にやり――口端を上げて見せ、部屋から出て行ってしまった。ギルガータが出て行った方を、不思議そうに見つめ続けていたら――。
「自分が言ったこと覚えてなーいの?」
すぐ傍から発せられた声を辿り見た先に、ウィリカが壁に背を預けて微笑んでいた。